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□蛇眼の武王と翼持つ者の邂逅
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彼女の向かったリーベリア地方では、フィリアス・セイラン・アストライアの三国会議が行われた後、エルフの国・アストライアの女王が行方不明となった。
風の噂ではフィリアス王が殺害されたという話もある。
長年睨み合いを続けて来た三国の、歴史的とも言える会談は決裂に終わったらしい。
本来ならば、海で隔たれているとはいえ同じエンディアスにある国家同士だ。
リーベリアに赴き、事の真偽を確認したい。
しかし王に即位したカイネルには、前年の戦争で疲弊したルーンベールを立て直す責務があり、故国を離れることが出来ない。
事件の詳細を知ろうとしても、離れた土地に向かうことは不可能だ。
それ故、世界を巡る彼女から、不穏な情勢の続く各国の動向を聞けるのは望ましいことであった。
そしてもう一つ、彼が気になっている事があった。
祖国に帰ってきてから定期的に届いていた、ある友人からの連絡が途絶えたのだ。
彼の妹やケンタウロス族の軍将は、かつて共に戦ったその少年のことを酷く気にしていた。
彼女は彼が所属していたシルディアの騎士団団長にも便りを送ったが、安否はわからなかった。
母の残した研究所や、世界の真理を探る彼女の旅は、誰にも何も告げず行方をくらました彼を探す為のものでもあるのだろう。
弟とどこか似た、決して自己主張するタイプではないが、強い意志を秘めた少年を。
「…………」
そこで思考を止め、カイネルは室内へ首を巡らせた。
部屋の扉を開けて真っ先に目に入る場所には、肖像画が飾られていた。
カイネルがルーンベールを離れる前に、兄妹三人で描いてもらった肖像画だ。
まだ両目とも赤い色をした己の双肩で、今よりも顔(かんばせ)が幼い妹と弟が頬笑んでいる。