闇の誘う夜想曲
□〜小さな夜の歌〜
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じわじわと、無意識の暗闇で、
その栄光の証は脳を縛り続ける
それはもう 本来の役割を遺脱していた
それでも 輝けるのでしょうね
でも
ねぇ
“ 愛してるよ きみだけ ”
嗚呼 、
溜息 。
堕ちた栄光
棘の冠
「ねぇ、なんで「羅刹」のところにいっちゃったの?」
誰にも聞かれる事の無い呟きが、豪華な、しかし趣味の良い部屋の空気に溶けていく。
柔らかい色合いの筈なのに、薄暗い部屋はどこか無機質で、歪だった。
その重たい呟きが完全に部屋に溶け込むと、ルヴィアスは傍らの写真立てを弄ぶ。
それに写っているのは、今とさほど変わらない姿の自分と、仏頂面の弟だった。
くす、と微笑みが彼の唇から漏れる。
しかし、笑っているのに、それはどこか哀し気だった。
「「光輝」になったのだって、きみのためだったんだよ?」
約束をすっぽかされて拗ねた子供のような声で、しかし表情はただひたすらに大人びた、穏やかな様子で淡々と写真に語りかける。
「別に、僕はのんびりやりたかったし、きみがいるならそれでよかった」
そっと、自分の頭部を飾る冠に手をやると、しゃらりと飾りが澄んだ音をたてた。
「きみの、ためだからだよ?」
重たい冠が、少し、ずれる。
「きみを、守るためだったんだよ?」
ずるずると、落ちる。
………………“堕ちる”
「ねぇ……なんで?」
壊れたレコーダーのように繰り返される問いかけ。
問いに答える者がいない事を判っている筈なのに、それは繰り返される。
嗚呼………否。
“ 彼は既に壊れていた ” のだ。
「守れないのが歯痒かった」
かしゃん。
冠が落ちる。
「この地位は、僕なりの贖罪だったよ」
ちゃら、と飾りがなお揺れる。
「 この冠を戴くコトで、僕のアタマは千切れそうな程に痛かったよ 」
ぱきん、と、ルウィアスが冠の宝玉を一つ割った。
割れた破片は、まるで涙のように彼の足下に飛び散る。
「くす………くすくす」
静かに、静かに、頬を涙が伝ってゆく。
それを無視するかの如く、ルウィアスはせせ笑った。
「「裏切り者」には、お仕置きをしなくちゃねぇ………」
くすくすくすくすくすくす………
嗤い声は止まらない。
くすくすくすくす……
くすくすくすくすくすくすくすくす……
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす……
くすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくすくす……
コンコン
「光輝様?」
唐突に、扉が叩かれる音が部屋に響いた。
今まで嗤い声しかなかった部屋への新たな「音」は、自然であり、その部屋にとっては不自然でもあった。
しかし、その部屋の主は極上の微笑みをとうに涙が乾いた美貌に貼付け、蜜のように甘く答えた。
「ああ、ごめん。いま開けるから待ってね」
何事も無かったかの様に、一つ宝玉が欠けた落ちた冠を拾い上げ、本来なら複雑に髪に編み込んで均衡を保っているいるそれを上手く頭に乗せた。
そして、一呼吸の後に躊躇いなく、扉を開く。
そこには、まだあどけない美貌の少女が、手を胸元で組んで立っていた。
ルウィアスは、そんな少女、ロゥズにふわりと微笑み、首を傾げる。
「どうしたの?」
「あ、あの、えっと……」
ロゥズは僅かに頬を紅く染める。
そして、暫しの思考の後、おずおずと口を開いた。
「あの、力の事で相談があって……あ、お忙しいのでしたら良いので……っ!」
「ううん。暇だったし別に大丈夫だよ?それに、君達の成長の手助けをするのだって、「光輝」の役割だしね」
「……ありがとうございます………」
そう、「光輝」の役目
でもね、抗うから。
きみが羅刹の許へ走ったように
僕も きみを守り続ける
「ずっと……… ず う っ と 一緒だよ………?」
くすくす
くすくす
じわじわと、無意識の暗闇で、
その栄光の証は脳を縛り続ける
それはもう 本来の役割を遺脱していた
壊れた宝石はもう、
もとにはもどらない。
あとがき?
狼傷年様よりお借りしました!「棘の冠」です。
痛そうだな〜…っていうのが最初の印象でした。
なので、ラスボスのルウィアスさんに被ってもらいました(ヒデェ)
本編でだすかもしれないシーンですが。(マジでか)
では、寝ます。眠いんで。