短篇集

□血塗れて愛をうたうおんな
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 いつまでもきみがいてくれるように













 あるところに、一人のおとこがいた

 そのおとこは ある日一人の美しいおんなを拾った



 かのじょの口端からあふれるのは 紅い鮮血

 蒼白い美貌はぞっとするほどのおそろしさがあった


 が おとこは優しかったので

 そっとおんなを抱きかかえ 家に連れ帰り大事に看病した










 やがておんなは元気になった

 まるでおとこの妻のように過ごし 村にも馴染んだ




 料理上手で働き者

 美人なうえに器量よし



 村一番のおんなだと ひとびとは誉めた



 毎日が しあわせだった








 しかし しあわせは永くはつづかないものである

















 ある日 おとこは病にたおれた





 村に おそろしい疫病が流行りはじめたのだ




 そして 弱いものから死んでいった




  子ども  老人

 女   男



 しかし おんなだけは病に冒されることなく かいがいしくおとこや村のひとびとの看病をした


 しかし やがて村のひとびとは








 かのじょをおそれはじめた






 「化け物だ」


   「山の妖怪」



 「気味が悪い」



   「そういえば 年をとっていないじゃないか」








 やがておそれは “迫害” へと繋がった








 「化け物め!」


   「この病はお前が運んできたのだろう!」



 「疫病神!」








「殺してしまえ!!!」
               






 きがとおくなるほどの 罵声



 こおりつくような 視線





 やさしき日々の面影をうかがうことは叶わず しかし おんなは泣かなかった




 しかし ただ








 「ごめんな」





 ただ 一人をのぞいては





 「なんでお前がこんな……」




 おとこだけは







 「ほんとうに…ごめんな……」











 かれだけは 病の床で


 おんなのためにただひたすら涙を流した















 やがて 


 ある日を境に おんなは消えた








 かのじょがいなくなり 村にはとうとう動けるものはいなくなった




 嬰児の骸をかき抱いて 母親はなき叫び


 老人は孫に己の皮を喰わせた






 村へはしゅうえんという名の牙がたしかに喰いこんでいた









 おことはというと 事切れる寸前だった







 しかし かれは


 朦朧とする意識の水底で おとこは光をみた





 おんなが 枕許で微笑んでいた








 その身は 出逢ったときのようにぼろぼろで


 ところどころに棘をひっかけていて


 口端には紅い血が流れていた







 おとこは精一杯に手を伸ばす しかし


 おとこの手は哀しいほどにくうをきるばかりだ


 そんなおとこへおんなは 優しい微笑みをうかべ


 やさしくいつくしむように おとこの頬に手をそえて





 そっと しずかにくちづけた










  「 あなたが 生きてくれることがしあわせです 」














 そしてちいさく呟かれたことばは 朦朧とした意識にまじりながらかれにとどいた


 こくり と 血濡れたかのじょのくちびるから零れた血は おとこの咽を流れていった


 それを見たおんなはまるで花のように微笑むと




 淡い ひかりの粒子となってきえた











 やがておとこの体からは痛みはきえ


 おとこの血を飲んだ子どもは意識をとりもどし


 その泪にふれた老人は息を吹き返した





 やがて村へともどる 賑やかな喧噪




 しかし そのなかにかのじょはいなかった
























数年後 かれは






森の奥に棲む 醜き魔物の話をきく






血塗れて愛をうたう女







続く








あとがき


「血塗れて愛をうたうおんな」はこれで終わりで、話は続きます。予定では次で終る予定です。
予定は予定だけれども。



えっと、とにかくありがちかつ暗い話になる上サンホラを参考に考えたものなので、嫌な人は回れ右で。

でも登場人物は気に入ってるんで、あまり貶さないでください。





 愛って 多分、難しいものなんだとおもいます。




2007 9 22 霽凪璃穩

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