MP100

□光の先
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「「――…ぁ」」


不意に足を止めた2人。
何かと思いつつその目線を追えば、何故かパレードを逆走する様にこちらへ向かってくるこれまた小さな浮遊物体。




ボール?
いや、風船?


小ぶりの風船に、白い布を乗せて御丁寧に丸く切り抜いた穴から目が見える様に描いてあって


このパレード風船まで仮装させるとか、本格的なんだな…とか何処か他人事の様にこちらへ向かって風船を見詰めていた。












目の前まで来た風船は、オレ達まで数歩の距離でふよふよと静止している。
風船だと思っていたのに、その下に続く糸も
それを引く人の姿も無くて


やっぱ夢なんだと、それを見詰めていた。








「ガキ共、なんでソイツと居る?」


風船から発せられた声はこの楽しげな空気を疎まくし思っているような苛立ちが滲んでいた。






「いっしょ」
「いいっていった。」


左右から風船へと返さる声音も先程迄の、楽しげなモノでは無かった。




「――…チッ」
その言葉に風船は忌々しく舌打ちをする。




そんなオレ達の周りを流れてゆくパレードは、フィルターの越しの世界の様。




「お前は、コイツらと一緒がいいのか?」


「――…ぇ、と、」


嫌じゃ無い。この2人は初めてあった気がしなくて、安心するし、可愛いし一緒に居てくれると言った。


何よりオレの手を掴んで離さない2人を何故嫌う必要がある。




そう思うものの、風船の鋭い視線に上手く言葉が出て来ず口篭る。






「ガキ共、Trick or Treatだ」
「「!!?」」
低くある種ドスの効いた声音で、風船はそう言えば両サイドの2人がビクリと萎縮する。






「俺様へ貢げねぇなら、コイツを貰うぜ?」
「え、なん…で」


オレなの?


そう口を開く前に、オバケ風船がパンっと音を立てて弾けた――…。






「やったね、にいさん」
「うん」


狼くんが小悪魔に、にいさんと嬉しいそうな声を上げる。
小悪魔も、頬を高揚させてうん!と嬉しそうに笑う。




(一体何が…)


さっきまでの華やかなパレードとは違う目まぐるしさに、言葉を挟む余地が無くおろおろと視線だけを巡らせる。






ざわりと心が揺れる。


あの風船オバケが、弾けた事が凄く気になる。






――…とても大事な…












「おにいさん、もうだいじょうぶ」
「あくりょうは、にいさんが『とかした』から」




見上げてくる2人の幼子は、悪戯が成功した子供の様に満足げに笑いかけてくる。




「ちょ…と、待って。――…『溶かした』って
何?」




嫌な汗がじわりと滲む。


『溶かした』その言葉の意味をオレは知ってるハズ――…。




「んんーと、きえた?」
「じょれいした、だよ。にいさん」




「――…ッッ」


2人の無邪気な言葉と笑顔に、オレの中で何か音を立てて崩れた。






「っ?!」
ぞわり、と嫌な汗も心のざわめきも全てが符号した途端オレは2人に叫んでいた。




「ねぇ、ホントに『溶かした』の?!」


「「うん」」


「だって、おにいさんをくれっていうから」
「おにいさんは、ぼくらといっしょっていってくれたもん」


「――…ぁ」










オレはまた間違えた――…?


真っ直ぐ見詰めてくる双眸には、一点の曇りも無く純真。




だけど。




オレは2人より








――…ごめんね、




目頭が熱くなる。
オレ、ホント…は…




熱く歪む視界に、幼子達が揺れる。








「おにいさん?」
「どうしてないてるの?」


両サイドから小さな手がぺたぺたと顔をなで。


「オレ、君達といたいって…居てもいいって思ったけど」








どうして思い出せなかったのだろう


夢だとタカを括っていたからなのか…






君達2人に初めて会った気がしなかったのも




あの悲しげに微笑む魔法使いの少年も




踊り狂うバンパイアの青年も










オレの知ってる人達だったから。






そして、オレが一緒に居たいのは――…










「 」








ぽろぽろと止めど無く溢れる熱い雫。
両サイドからぺたぺたとそれを拭ってくれている幼子達の手の感触。






――…優しいね。オレは今交わした約束をあっさり違えようとしているのに
















「やっと呼びやがったか」
「!!」


不意に背後から聞こえた低い声に弾かれた様に顔を上げ振り返る。






「ったく、あっさり呑まれてんじゃねぇぞ」




揺らぐ視界の向こう。そこに立つのはシーツを被った長身の男。


「どうして『とかした』のに」


「あー、お前さんに『溶かされた』さ。折角溜めてた霊力だったのによぉ」
小悪魔の声にシーツの男は柄悪く答えている。






「でも、コイツが俺様を呼んだからな」


2人の会話が見えなくて、ただ解るのは繋いでいる2人の手が緊張している事。




「もう一度聞くぜ、お前はどうしたいんだ?
このままガキ共と一緒に居るか?それとも――…」


シーツからくり貫かれた向こうの真っ直ぐ突き刺さる鋭い視線。








「2人とも、ごめんね。オレ一緒に逝きたいのは2人よりあの悪霊なんだ」




ゆっくり2人の瞳に想いを告げる。




「どうして?」
「あいつは、わるいあくりょうなんだよ」




「うん、そうだね…。」


「――…」


「2人はずっと2人で居れるからさみしくないだろ?」


「うん」
「うん、にいさんがいるからさみしくない」




「でも、ね。あの悪霊はずっと独りなんだ。


今までも、これからも――…」








「だから、ちょっと間かもしれないけど…オレはあの悪霊と一緒に居たいの」


――…いいかな?




そう、静かに問い掛ければ幼い2人は互いに顔を見合わせて




ゆっくりオレの手を解いた。










「ばいばい、おにいさん」
「ばいばい」


2人出会った時の様に手を取り合うと、パレードの中へと紛れ込んでゆく。






「ありがと、ね」
そんな小さな背を見送り謝罪の言葉を呟いた。
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