MP100

□光の先
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***




「――…エ、クボ?」


重い瞼を押し開ければ、ボヤけた視界に映るのは見馴れた天井。




腹と首筋に感じる硬さと重みに、気配ある方を向けば目を閉じている男。




「…気づいたか」
オレの声にゆっくり開かれた瞼と共に、腹にあった重みが無くなりそっと頬を拭われる。


「ん」
近づく顔に思わず目を閉じれば、反対側の頬にカサついた唇が押し当てられる。






「なんで此処にいるの?」
「お前に熱を移してたからな」


――…具合はどうだ?


熱を移して…?


その意味が解らず瞬けば、男は勝手に解釈してくれたのか互いの隙間を埋めるかのように抱き寄せてくる。




「お前、事務所に来た荷物に触れてぶっ倒れたんだよ。」


――…覚えてねぇか?




低く優しい声と、その少し低めの体温に包まれて何となく記憶を辿る。












『新隆、依頼品って書いてあるよー』
『あー、開けてくれ』


休日の暇を持て余し、事務所に顔を出した折
荷物を受けとった。




ダンボールから嫌な気配も無く、警戒無く開封した中にあったのは1冊の古びた絵本。




『…へぇ、可愛い』
そう手に取った所でまるで、ブレーカーが突如落ちた様に記憶が途絶えていた。












「あの本にお前さん取り込まれたんだよ」


あのままあのパレードに付いていけば帰って来れなかっただろうと、男は続ける。


「でも、どうしてハロウィン?」


今日はそうだろ?
あとはお前さんの霊力と生命力ガンガン使ってあのチビ共があの世界を作ってた。


お前さんの記憶を使ってたから、あんなナリだったんだろうさ。


俺様が精神破壊が得意で良かったな




そう淡々と続く男の言葉に、オレはあの小さな2人に心も命も奪われかけていたのだと知る。




「お前、あの夢ん中で何も食わなかったのか?」
「ん、男の子がね。クッキーくれようとして落としちゃって『失敗した』って言ってたんだよね」
あの時の男の子の酷く悲しげな顔が脳裏にうかび胸が痛くなる。




「はぁ――…ぁ、お前 ホンット危ねぇわ」


オレの言葉に男が大袈裟過ぎる位の溜息を吐き出す。




「でも、あのガキ共…本気でお前を連れて行く気無かったのか?」


独り言の様に零した男の言葉に、きょとんと瞬けば大きな手が緩やかに頭を撫でて口を開く。






「死者の食い物は、生者には毒だ。聞いた事位あるだろ?」
「ん」


つまり、あの男の子の『失敗した』は、オレをあっち側に取り込む事を『失敗した』という事――…。


「――…ッッ」
ぞくりと嫌な感じに、思わず目の前の男にしがみつく。


「とりあえずあの本はモブが『溶かした』し大丈夫だろ」
――…だから、今は休め。


ポンポンとあやす様に大きな手が一定のリズムを刻む。


「エクボ」
「どうした?」


「ありがと」
「…」


護られてるという感覚に、どろりと意識が落ちてゆく。
少し舌っ足らずになった気もするが、男にそれだけは伝えたかった。


男の返る言葉は聞こえなかったけれど、
優しく空気が揺れるのを感じて意識は完全に落ちていった。












――…HAPPY HALLOWEEN














※これの同内容、一部加筆修正版 エク霊→光の先(エク霊)
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