プロポーズ大作戦

□小休止:イタリアの場合
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その次に気になったのがあの言葉。
彼の知らない、ドイツ語だった。

夢だったのかもしれないがイタリアもよくわからない言葉で、彼に何と語りかけていたのか。

『Ich liebe dich』

最初はドイツの家の言葉で愛してる。
最後には『Italien ....』と、イタリアの名前を呼んでいた。

でもその間に言っていた言葉がわからない。
耳や口といった単語は聞き取れたようだが、イタリアの家の言葉とは全く違う言語に完全な理解を得るはずがなかった。

「んー…ドイツ語かぁ」

「ヴェネチアーノ」

「あ、兄ちゃんどうしたの?」

「さっきからずっと言ってるだろ!!映画始まったのに全然見てねぇじゃねーか!」

「えっ?あ!ホントだ!!うヴェェェどうしよぉぉぉ」

最初の10分程であったが見逃してしまった部分は大分重要な場所だったらしい。
ロマーノはイタリアと語り合おうとして彼に視線を向けたが、肝心の弟はテレビを見ていないときたものだ。

「つかお前さっきから『ドイツドイツー』としか言ってねーぞ」

皮肉として、自分の声音をイタリアのそれに近づけて真似る。

「そ、そうだった?」

「そーだよ。いつも口開けばマッチョジャガイモの名前出してるだろ」

「ヴェ〜」

「照れてんじゃねぇよ!」

常にふわふわとしている弟をさりげなく心配している兄としては、弟があんな男に心奪われ、行動や思想までも支配されてしまっているかと思うと腹立たしくて仕方ないのだろう。
唇を尖らせながら無造作に皿の上のチーズを手に取り口に運ぶ。
グラスに注がれたワインもグイッと飲み干した。

「あ、兄ちゃんCM終わるよ」

「わかってるっつーの」

どことなく上の空なイタリア。
兄は双子の兄弟としてそれなりに察してはいるのだろう。

「(ドイツに会いたいなぁ)」

映画を見ながらも、やはり頭にはドイツのことばかり。
会ってハグして優しいキスをしてほしい、そんなことを思いながら欲求不満な口へ代わりのワインを含ませる。

「(こんなにドイツが好きなんて思わなかった…。俺どうしたら良いんだろ)」

ここ最近のドイツの行動がそれを思わせているのにイタリアは気づいていた。
突然食事に誘われたこと、怖い顔で何かを言おうとしていたこと、そして昼間の…。

もしかしてドイツは…。

『別れて欲しい』

体をビクッとさせ、その声のする方を見た。

『君のために別れた方がいいと思うんだ』

『そんな!私は…』

『ごめん』

映画だった。
ロマーノはグスグスと鼻を鳴らし、ティッシュで涙を拭きながらテレビを見ていた。

別段、イタリアはドイツを疑っているわけではなかった。
だが、少し恐ろしく思ってしまったのだ。

もし、ドイツに飽きられていたら。
もし、ドイツに嫌われていたら。
もし、ドイツに…別れようと言われたら…。

「(俺ばっかり好きでいても迷惑だよね…)」

友達でいた方が楽だった。
恋人になってから楽しいことがいっぱいあったけど、不安が増えた気もした。

けど、ドイツをどんどん好きになる自分がいた。

「チクショー…なんでこんなすれ違いがっ」

「兄ちゃん」

「…あ?」

イタリアは映画をほとんど見ずに「先に寝るね」とロマーノに告げて寝室に行った。

大して眠くもなかったのだが、ベッドに入って目を閉じる。


(ドイツは俺のことどう思ってるのかなー)




同日同刻、その想い人が同じようなことを考えていることを、彼は知らなかった。



続く
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