06/10の日記
17:34
タイトルなし
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その簪についていたのは、薄紫の、どこにでもありそうな花だった。
ただなぜか私の目には、一つ際立って見えたのを覚えてる。
「なんだ?これ、欲しいのか?」
店先で思わず足を止めたからだろう。
数歩先を歩いてた××××さんが、戻ってきた。
隣で自然に足を止め、訝し気に顔をしかめて簪に目を向ける。
「簪かあ」
少し恐かった顔が、やんわりとした笑みに変わる。
この表情が、私はとても好きだ。
顔の知らない時からずっとずっと想像していた彼は、私が思ってたより、ずっとずっと素敵だった。
「××に似合うだろうなあ」
人のよさそうな笑顔のまま、大きな手で慎重に掴んだ簪を、私にあててくる。
髮短いから、つけられないよ。
私は、元気に笑った。冗談混じりに。
ついでに、似合わないと思うし、と。
もうひとつ、諦めの理由を付け足した。
あまり装飾品を買わないから、買いづらいと言うのもあった。
つらつら理由を並べて、さ。いこう。と××××さんの背中を押す。
でも、彼はしばらく簪を見つめて動かない。
ねえ。と声をかけようとした時、××××さんは「よし」と小さくごちて笑った。
子供が悪戯をやる前の様な、幼い笑みだった。
私が声をかける間もなく、××××さんはレジの方に行ってしまう。
手には、あの簪を持ったまま。
まさか、とは思ったけど、やっぱりそのまさかだった。
そそくさとレジから戻ってきた××××さん。
手には、綺麗に包装が施された簪。
「欲しかったんだろ?髮、長くなったら使いなさいな」
優しい笑顔。差し出される簪。
それだけで、なぜか泣きそうになった。
受け取った時にわずかに触れた彼の手。
それもまた、温かくて。
「ありがとう」
言葉じゃあらわしきれない感情。
それでも何とか言葉にしたくて、口を開いてそういった。
それだけ。たったそれだけなのに。
××××さんは最高の笑顔で、「おう」と返してくれました。
ああ、幸せだなあ。と。
心から感じる午後でした。
End、
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