短編

□運命のサテライト
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俺は中学三年のとき、大好きだった恋人に裏切られた。

俺をどこ構わずベタベタ甘やかしていた恋人は、その裏では他の男と浮気をしていたのだ。

俺が浮気を発見してからも、浮気は続いた。

俺は嫌われたくなくて、恋人が浮気をしていても黙っているだけだった。
そういう人なのだ、彼が愛しているのは自分だけ、と自分を騙した。



だけど、それも終わりが訪れる。

休日。
久々に家に呼ばれたら、彼は堂々と自分の部屋で浮気をしていた。

浮気相手は俺に気づかないほど夢中になっている。
しかし彼は、俺に見せつけるように事を進めた。



その光景に俺は呆然とした。


彼はいったい何をしたいんだ?



答えが出なければ出ないほど俺の頭はこんがらがって、もう駄目だという結論に辿り着いた。



やっていける気がしなかった。
これ以上傷つくのは嫌だった。



「斎(いつき)、別れよう…?」



彼の返事なんか決まっている。

きっと別れたいがために俺をここに呼んだのだ。
向こうから告白した手前、自分から振るのはどうかと思ったんだろう。
そのくらいの優しさは持ち合わせているようで安心した。

もう関わることは無いと思うけれど。



そのまま部屋を飛び出し、家に帰った。










俺は必死に勉強して、あいつが来れるはずない難関の全寮制男子校に入学した。

そこまでしないと、頭からあいつが離れない。
消えてくれない。


おかげで中学時代の俺からは一変、性格が捻じ曲がってしまったけれど、それも気にならなかった。
この性格を好きだと言ってくれる友人も少ないながらいる。
それで十分。





おおかた平和を取り戻し始めた、高校二年の春。
俺は初めて全校集会というものに出た。

それまでは、教師や生徒の長ったらしい話が嫌で屋上に逃げていた。
本当は生活指導ものなのだろうが、学年主席をキープしている俺を咎める奴は誰もいなく、また、この学園は規則にゆるゆるな教師ばっかりだ。

サボるのは容易かったのだが。





俺は友人に引っ張られ、初の全校集会参加を果たすこととなる。

何でも、「今年の生徒会は凄いよ!」のだという。



はっきり言って興味ない。

凄いよ、って何が凄いんだろう。
前年度の生徒会も凄かったではないか。
イケメンばっかりで。

マジでイケメンパラダイスだった。



「違うの!これは腐男子としてしっかり見ておくべき生徒会なの!」

出た。
有栖(ありす)の腐男子発言。

今更気にしないが、それと俺をここに引っ張ってくるのに何の関係が?



「朔夜(さくや)は総受けなの、いい?」

俺が何?
総受け?

総受けって何。



俺の疑問も有栖の前では打ち消され、何を聞いてもにっこりと微笑まれるだけだった。

何なの、もう。





そうしていれば、体育館に割れんばかりの黄色い声。

煩い。
いつもこうなの?

鼓膜が震えている…。



その歓声を受けているのは、今ステージに上がった生徒会の皆様なんだろう。

有栖がはあはあしてるし。



ていうかこの位置からだと、顔が全然はっきりしない。
無駄に広い体育館のせいだ。
人が苺くらいの大きさである。






声は煩いし、どうせ顔も見えないし、いる意味がないし、逃げ出していいだろうか。

俺は有栖に気づかれないように、そっと移動する。


が、前を向いたままの有栖に腕をがっと掴まれ、渋々元の位置に戻る。



「静かにしろ」

マイクから発せられる、重低音の声。
その声に体育館の声は静まり、静寂に包まれた。



「俺は今年度生徒会長の、相模(さがみ)斎だ」










俺は呼び止める有栖の声も聞かず、体育館から逃げ出した。






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