Temptation

□大好きで大好きで
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隣で本を読んでいる人に
少しずつ近寄って行く

四つん這いで

こっちに気付いているのか
気付いていないのか
お得意のポーカーフェイスでは分からない

目線は真剣に手元の本に注がれて
横から見ている分には
上下に動いている瞳が
文字を目で追っているのが分かる

そんな横顔も
ソファに座っている姿も
足を組んで本を読んでいる姿も
何もかもが絵になる

堪らずに寄っていって
足元に座り込み
太ももに頭を乗せると
温かい大きな手の平がポンポンと乗ってくる

たまの休み、読みたい本が堪りまくっている
観たい映画も全然消化出来ていない
身体も動かしたいし
気分転換に温泉も行きたい

なのに休みはたった1日だ

忙しい忙しいこの人の為に
何が出来るのかを考えると
何も無い

なら傍にはいたいけど、せめて寛げるように
煩わしい家事位は引き受けようと
部屋へやってきたが、ある程度すると、もう何もやることがない
普段からきれい好きな人らしく、部屋は片付いているからだ
太ももに乗せた頭から、じんわりと名取さんの体温が伝わる

「つまらないだろ・・ごめんね」
「ううん・・こうしているだけで十分です」
「相変わらず・・欲がない」
「いいえ・・・一杯ありますよ」
「本当に?」
「ええ・・・・」

そう言って、太ももに乗せたまま目を瞑ると
頭を撫でていた手が離れて
ポンとソファに本が置かれた
目を開けて、見上げると
ニンマリ笑った名取さんが、上体をかがめて
俺を自分の膝に引っ張り上げる

「それは聞き捨てならないね」
「え?」
突然の抱っこに、恥ずかしいやら照れるやら
瞬きを繰り返すと、優しく唇が合わさる
すぐに離れてしまった、形の良い唇を目で追うと

「言ってごらん?」
「何をですか?」
「一杯あるといった欲だよ」
「ええ?・・・・イヤですよ」
「何でだよ」
「だって・・・それは自分の中の渇望というか欲求でしょ?」
「そうだね・・・」
「そんなの、言ってたらキリが無いです」
「うう〜ん・・・でも夏目のおねだりって聞いたこと無いから・・・何か1つは言って欲しいな」
にっこりと微笑まれると、イヤだと言えなくなる・・・不思議な魅力だ

「お定まりのやつですよ」
「その、お定まりのおねだりも、夏目の口から出たこと無いって知ってた?」
「じゃあ・・歴代の彼女にはなんておねだりされてたんですか?」
「え?・・・・なんだったろ?忘れたね」
とにっこりと微笑む
思わず口を尖らすと、クスッと笑ってチュッとキスをしてくる

「その拗ねた顔も可愛いね」
「・・・・・・・」
顔を隠すように、首元へ頭を突っ込むと
さらにクスクス笑って、抱きしめて来る
どうやっても適わないんだ、この年上の恋人には

「ほら、言ってみて」

「いつまでも一緒にいたい・・・・それだけです」

ボソボソと首元で呟くと、無理矢理顔を起こさせられる
ジッと見てくる瞳に耐えきれず、下を向くと

「それってプロポーズ?」

「へ?・・・・ええ?!」

顔が熱くなって、離れようとすると
名取さんの腰を抱く手に、力が入り離してくれない

「やられたな〜・・まさか夏目からプロポーズされるとはな〜」
「ち・・ちがう!」
「あれ?違うの?・・一緒にいたくないんだ?」
「や・・・それも違う!」
「どっち?」
明らかにからかわれているのは分かっているが・・・
「意地悪です・・・」
ウッとまた顔がふくれっ面になる
「ごめん・・もう1度言ってみて」
「ええ〜・・・」
「早く」
「うう・・・・いつまでも一緒にいてください・・・・」

「うん・・・ずっと離さないよ」

そういって唇が合わさる
優しい優しいキスが
いつまでも2人をつなぐ

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