Temptation

□夏誕! ver1
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7月1日の衝撃



目覚めて、窓を開けると
綺麗に澄み渡った夏空

青色が視界いっぱいに映る

「今日は暑くなりそうかな?」

そんなことを呟いて、服を着替える
夏服になった学生服に着替え
下に降りていくと、塔子さんがニコニコと笑顔で

「今日はごちそう用意しておくから、お友達は4人だったわね?」
「あ・・・ありがとうございます・・・」
「ふふ・・楽しみ帰って来てね」
「はい・・」

何故か熱くなる顔を伏せて、思わずにやけてしまう
こんな風に祝って貰える

初めての誕生日

ワクワクもし、友人を呼ぶなんて
こんなに嬉しい誕生日なんて、両親がいた頃は別にして
初めての事だ

にやける顔を引き締めて、朝食の席に着く
新聞を眺めていた塔子さんが
「あら?!・・・まあ・・・」
「ん?どしたんだ?」
ビックリした声に、滋さんがなんだと覗き込み
「お?・・・本当か?」
2人でびっくりしている様子を、箸を持ち上げようとした手が止まる
何かな?と見ていると、塔子さんが何とも言えない表情で
俺を見てきてから、滋さんと顔を見合わせる

「どうしたんですか?」
怖々聞くと、塔子さんがおもむろに咳払いをして

「名取さん・・・結婚するって聞いてる?」

「え?」

聞き慣れない言葉が、
頭に
胸に
深く突き刺さったような
そんな感覚に体が揺れる


「聞いて無かったよね?」

何故か塔子さんが泣きそうな顔で俺を見てくる
開いたままの口を閉じて
なんとか返事を返そう・・・
何か言わなきゃ・・
そう思うのに

何かが刺さった心臓と
頭がボンヤリして、言葉が出て来ない

持ち上げた箸を下ろして、頭を振ると
塔子さんが、そうよねと頷いて
俺の傍に回ってきて、頭を撫でてくれる

「貴志君・・・大丈夫?」
「え?・・・・ああ・・・・はい・・・大丈夫です」

なんとか言葉を絞り出して
返事をして、食欲は一気に無くなったが
用意してくれている物を食べない訳にいかず
頑張って、砂を噛むような感覚で咀嚼して
喉に流し込み、お礼を言って弁当を受け取り
家を飛び出した

泣くまい

そう唇を噛みしめる

期待が絶望に変わる

そんな事は今まで普通だった

夢は夢のまま
過酷な現実が口を開けて待っているなんて
日常だったはずだ
幸せな時間を経験して、平和ボケしていた自分を呪う

そうだよ・・・
メディアより先に俺に報告なんてする程の仲でもない・・

初めて出来た
見える友人だと
言ってくれた、あの言葉は

「嘘を吐くのに疲れたら・・」
あの言葉は

名取さんの優しさから出た言葉で
本心なんかであるわけ無い

ちゃんと
今度会える事があるならば
ちゃんと言える

おめでとうございます

この言葉がちゃんと言える
憧れや尊敬から
いつの間にか
好きだった

いつかはこんな日が来るのは分かってたけど・・
何も
何も
7月1日に発表すること無いじゃないか
嫌がらせ以外の何ものでも無い
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