Temptation

□夏誕 ver2
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「お誕生日おめでとう」

キラキラの笑顔で、いつもの学校からの帰り道
待ち構えていたように
自称人気俳優の男が飛び出して来る

「・・・・・・・・」

ため息を吐いて
見返すと

「あれ?・・・なんで冷たい反応・・・名取さん!嬉しいです!って・・」

首を傾げながら、あきらかにプレゼントであろう包みを
胸の前で振りながら話す

「名取さん・・・」
「なに?」
「残念なお知らせが・・・」
「え?」
「俺の誕生日なんですが・・・7月1日です」
「うん!知ってるよ〜・・だから今日持って来たんだよ?」
「・・・・・」
目をすがめて見つめると

名取さんはあれ?という顔をして
ちょっと待ってとジェスチャーして
後ろを振り向き、ポケットから携帯を取り出して
画面を確認して

「あれ?!」
「・・・・・・」
「うそ?!」
「・・・・・・」

後ろ姿を見つめていると
あきらかに項垂れて、携帯の画面をスライドさせて
そっと振り返ってくる

「はい・・・きょうは7月2日です」

「・・・・・・」
半泣きのような顔で俺を見てくるので
堪らずに吹き出してしまう
ケラケラと笑う俺を見て、名取さんも泣きそうな顔から
吊られて笑い出す
「ごめん・・・本当にごめん」
頭をペコリと下げるので

「いいですよ・・仕事忙しいんです・・仕方ないです」

本当は誕生日の丸々24時間というもの携帯をずっと握りしめていた

いつ掛かってくるかな?
メールだけかな?
声は聞けるのかな?
紙の式が飛んでくるかな?

7月1日の0時を過ぎて2日になって
やっぱり、ずどんと落ち込んだ・・・
窓を開けて、輝く月を眺めて
本当に胸に何かおもりのような何かが落ちて来た
忘れてるんだな・・
覚えてる訳無いよな・・

でも・・
でも

仕事忙しいのは知ってた
だから
絶対に文句は言わない
そう決めてた

顔を見たら・・泣きそうになって・・
でも
誕生日を覚えてくれてた事に嬉しさを感じて
忘れてたんじゃないんだ・・

こうして忙しい中来てくれた
目の下真っ黒の隈作ってまで


「ほんと・・・言い訳になるけど・・・このところ日にち変わる仕事ばっかりで・・・
プレゼントも用意して・・必ず1日には来ようって・・・逢いに来ようって・・・
ごめん、大事な恋人の誕生日に・・間抜けだね」

しょぼくれながら、さりげに恋人とか言われて
顔が熱くなる
そう・・・確かに、好きだと告白したら
名取さんも、笑顔で俺もだよ
って応えてくれたが・・それ以来、逢うのが今日初めてだったりする

だから・・恋人とか言われても
自覚も感覚も無い

「こ・・・恋人・・・って」
「だって、俺達付き合ってんだよね?」
「ええ?!・・・そうなんですか?」
「告白してきた、男前な夏目は幻かな?」
「う・・・」
「好きだと言われて、俺もだと答えたら・・普通付き合ってると思わない?」
「だって・・人を好きになったの初めてなんです・・・普通なんて知らないですよ」
「そうか・・・じゃあ教えて上げる。俺達恋人同士なんだよ」

そういって近づいてきて、頬にチュッとキスを落としてきて
びっくりして後ずさる・・
「な!・・・こんなとこで何するんですか?!」
「誰もいないよ・・」

キスされた頬を押さえながら少し睨むと
名取さんは見下ろしながらニヤニヤ笑う

くそっ・・

経験値の差は絶対に埋められない
そんな事は分かってる・・

「ふぅ・・・今日はすぐ帰らないといけないんですか?」
「いや・・・4、5時間は大丈夫」
「うちに・・来ませんか?」
「いいの?」
「顔・・・疲れ切ってますよ・・少し休んで行ってください」

「ありがとう」

そういって、ふんわりと笑う
「だって・・・そもそも俺の為にきてくれたんでしょ?忙しい中・・」
「だって君が産まれた日だもん」
「昨日ですけどね」
「う・・・これは・・当分言われるな・・」
「そんなに言いませんよ・・たまにだけ」
「言うんじゃないか・・」

笑って見上げると、名取さんも笑顔で見下ろしてくる
「昨日は・・どんな誕生日だったの?」
「みんなが祝ってくれました・・・名取さん以外」
「もう・・・」
「ハハ・・・」

そんな事を言いながら、2人で肩を並べて
暖かい我が家へ帰る

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