HP and SB 3 ○騎士団編

□15 lost memory
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「レイ、ちょっと待ちなさい」
レイがさっさと部屋に上がろうとすると、リーマスに呼び止められた。
「どうしたの?」
レイはくるりと振り返って聞いた。
「話があるんだ。わかっているだろう?」
レイはしぶしぶリーマスのいる、厨房のキッチンに最も近い隅の方に行った。反対側やソファーのあたりではウィーズリー兄弟が爆発スナップやチェスをしている。しかし彼らもリーマスとレイの方をチラチラ見ているのは明らかだった。シリウスはそれを見て、レイが席につくと、リーマスの二つ横の椅子に座った。


「単刀直入に聞こう。一体どうしたんだい?」
リーマスはそう始めた。
「言っている意味がわからないわ」
レイはそう返した。
「わからないことはないだろう?この休暇が始まって以来、いやもっと遡れば夏休暇のあたりから何かおかしい。性格が少しずつ変わっていったみたいだ。向こう見ずで攻撃的に」
リーマスは随分とはっきり言った。部屋の反対側のざわつきもなくなった。
「そんなのわからないわ。何のことを言っているのか、さっぱり」
レイはなおも無表情でとぼけた。第一レイの自覚としてはこの2週間ほどで、夏からおかしかったといわれるのは不本意だ。

「……今日がいい例じゃないか。ひとりで無計画にデスイーターを探して追いかけて……君はもっと冷静に動く人だったはずだろう?」
「え?」
誰が声を漏らした。レイは無視した。
「"自分がどんな人間か"なんて、知らないわ」
レイは苦々しく言った。
「リーマスはこの3ヶ月は何の任務についていたの?」
「……今までと変わらないよ」
「嘘」
レイは逆に今度は訴追した。

「シリウスに脱狼薬を作ってもらってるなんて嘘でしょう。わざわざ任務の嘘までついて、何してたの」
リーマスの瞳が揺らいだ。
「別に嘘じゃない」
「シリウス、脱狼薬の材料は?」
レイはキッとシリウスを見た。
「トリカブト……あとは……」
どうせ答えられないシリウスからリーマスに視線を戻す。
「ご存知ないかもしれないけれど、脱狼薬ってまだその詳細が記載された書籍がないのよ。だから誰かに教えてもらうしかないの。騎士団でその作り方を知っているのはわたしとセブルスだけ。まさかシリウスがセブルスに教わった、なんてことはないわよね?」
シリウスの目が泳いだ。
「まさか、狼に変身する必要がある任務を行っていたわけじゃないわよね?」
レイが低い声で言うと、その他の学生たちはざわめいた。


「話を逸らさないでくれるかな」
リーマスは言い返した。
「今は君の変化について話してるんだ」
「あらそう」
あまりに低いトーンに、キッチンにいるモリーが心配そうに見ていた。
「でも生憎わたしは普通なの」
レイが小さく微笑むと、リーマスは食い付く様に言った。
「その微笑みも、いつからそんなに作り物くさいものになったんだ?」
レイは微笑むのをやめた。
「いつからそんなに冷えきった目をするようになった?何があったのか言ってくれ」
レイは答えなかった。


「……私もずっと気になっていた」
ここでシリウスが口を開いた。
「最初に変だと思ったのは、夏の任務中、ハリーの手紙を受け取った時だ。ハリーの手紙には黙って退院したお前の心配と、現状を教えてほしいとのふたつの事が書いてあった」
ハリーが最早チラチラではなく食い入る様にこちらを見ていた。

「返信を書かない理由を問うと、お前は"何も言っちゃだめなのに、何を書くの?"と返した。ハリーはお前を心配している、と私が言っても、"ハリーが聞きたいのはそれじゃない"からと言った。前のお前なら、辛いはずのハリーに何かしらの言葉をかけたはずだし、そんなことは言わなかったはずだ」
「僕、本当にレイのこと心配してたんだよ!?別に社交辞令で聞いたわけじゃない!」
ハリーが返すも、レイは何も言わなかった。

「それに……この前グリフィンドール塔から落ちたとき……レイ、目覚めてなんて言ったか覚えているか?」
「……変なことは何も言ってないわ。日時を聞いたくらい」
レイは静かに返した。
「お前は言った──"ならまた死に損なったのね"と」
「「「!!!」」」
何人かの息を飲む音が聞こえた。リーマスがバッと顔をあげた。
「別に、言葉のあやじゃない」
「だとしても言って良いことと悪いことがある」
レイはため息をついた。分が悪い。

「夏のあたりから、お前は平気で嘘をつくようになった。それまでは最低限しか嘘をつけなかったし、自分のことを心配している人間にはなおのこと隠し事ができなかった──トライウィザードトーナメントに立候補することを秘密にしておきたいと考えたときも、聞かれれば嘘もつかずに答えた。なのに今のお前は些細なことから何でもすぐに嘘に包み隠す」
「大人になったとか、処世術を身に付けたとか、そういうことじゃないの?騎士団員なんだからバレたらいけない秘密を抱えているわけですもの」
レイの言い訳は全く通用していなかった。まるでそれさえも嘘であると言わんばかりに、シリウスは首を振った。
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