HP and SB 4 ○プリンス編

□1 hazel
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「お待ち!」
廃墟となった製糸工場。
草ぼうぼうでごみの流れる小川。
立ち込めた霧。
物騒なその場所を進むフードの人影を、別の人影が追っていた。
「シシー──ナルシッサ──話を聞きなさい──」
「帰って、ベラ!」
二人目の女がもうひとりの腕を掴んだが、一人目はそれを振りほどいた。
「私の話を聞きなさい!」
「もう聞いたわ。もう決めたんだから。ほっといてちょうだい!」
ナルシッサは土手を上りきった。古い鉄柵が、川と狭い石畳の道とを仕切っている。荒れ果てたレンガ造りの建物が何列も、闇の中に浮いていた。

「あいつはここに住んでいるのかい?ここに?マグルの掃き溜めに?我々のような身分の者で、こんなところに足を踏み入れるのは、私たちが最初だろうよ──」
ベラトリックスは蔑むように言った。しかしナルシッサは聞いていない。
「こら、シシー、お待ちったら!」
ナルシッサは既に鉄柵を越えていた。
路地を駆け抜けると、ベラトリックスもそれを追う。なんとかナルシッサの腕を捕まえて後ろを振り向かせ、ふたりは向き合った。

「シシー、やってはいけないよ。あいつは信用できない──」
「闇の帝王は信用していらっしゃるわ。違う?」
「闇の帝王は……きっと……間違っていらっしゃる」
ベラトリックスの目が光った。
「いずれにせよ、この計画は誰にも漏らすなと言われているじゃないか。こんなことをすれば、闇の帝王への裏切りに──」
「放してよ、ベラ」

ナルシッサは凄んだ。それからマントの下から杖を取りだし、脅すようにベラトリックスの顔に突きつける。ベラトリックスは笑った。
「シシー、自分の姉に?あんたにはできやしない──」
「出来ないことなんか、もう何もないわ!」
ナルシッサは押し殺したように言った。そしてナイフのように杖を振りおろすと、閃光が走り、ベラトリックスは火傷したかのように妹の腕を放した。

「ナルシッサ!」
ナルシッサは再び走った。そして一軒の前に立つと、そのドアを叩いた。
しばらくしてドアが開く。隙間から黒い長髪の男が現れた。
ナルシッサがフードを脱いだ。蒼白な顔が、暗闇のなかで輝くほど白い。長いブロンドの髪が背中に流れていた。
「ナルシッサ!これはなんと、驚きましたな」
セブルスは言った。

「セブルス。お話できるかしら?とても急ぐの」
ナルシッサは声を殺して言った。
「いや、もちろん」
セブルスは一歩下がってナルシッサを招き入れた。その後ろから、まだフードを被ったままのベラトリックスも入ってきた。
「スネイプ」
ベラトリックスは睨むように言った。
「ベラトリックス」
セブルスは嘲るように笑った。

セブルスはワームテールにワインを用意させる。
「闇の帝王に」
セブルスが言えば、三つのグラスがぶつかり合った。
「セブルス──わ、私を助けてくださるのは、あなたしかいないと思います。他には誰も頼る人がいません。ルシウスは牢獄で、そして……」
ナルシッサは目を瞑る。二粒の大きな涙が瞼の下から溢れだした。
「闇の帝王は、私がその話をすることを禁じました」
ナルシッサは目を閉じたまま続けた。

「誰にもこの計画を知られたくないとお望みです。とても……厳重な秘密なのです。でも──」
「あの方が禁じたのなら、話してはなりませんな。闇の帝王の言葉は法律ですぞ」
セブルスは即座に言った。
「ほら!スネイプでさえそう言っているんだ。しゃべるなと言われたんだから、黙っていなさい!」
ベラトリックスは勝ち誇ったように言った。
セブルスは立ち上がって小さな窓のほうにつかつかと歩いていき、カーテンの隙間から人気のない通りをじっと覗くと、再びカーテンを閉めた。そしてナルシッサを振り向く。

「たまたまではあるが、我輩はあの方の計画を知っている」
セブルスは低い声で言った。
「闇の帝王が打ち明けた数少ない者の一人なのだ。それはそうだが、ナルシッサ、我輩が秘密を知るものでなかったなら、あなたは闇の帝王に対する裏切りの罪を犯すことになったのですぞ」
「あなたはきっと切っていると思っていましたわ!あの方は、セブルス、あなたのことをとてもご信頼で……」
ナルシッサはいくらか息遣いを楽にした。

「お前が計画を知っている?お前が?」
ベラトリックスは一瞬浮かべていた満足げな表情を怒りに変えていた。
「いかにも。──しかしナルシッサ、我輩にどう助けてほしいのかな?闇の帝王のお気持ちが変わるよう、我輩が説得できると思っているなら、気の毒だが望みはない。全くない」
ナルシッサの蒼白い頬を涙が滑り落ちた。
「セブルス……私の息子、たった一人の息子……」
「ドラコは誇りに思うべきだ」
ベラトリックスが非情に言い放った。
「闇の帝王はあの子に大きな栄誉をお与えになった。それにドラコのためにはっきり言っておきたいが、あの子は任務に尻込みしていない。自分の力を証明するチャンスを喜び、期待に心を踊らせて──」

ナルシッサはすがるようにセブルスを見つめたまま、本当に泣き出した。
「それはあの子が16歳で、何が待ち受けているのかを知らないからだわ!セブルス、どうしてなの?どうして私の息子が?危険過ぎるわ!これはルシウスが間違いを犯したことへの復讐なんだわ、ええそうなのよ!」
セブルスは何も言わずに、ナルシッサから顔を背けていた。
「だからあの方はドラコを選んだのよ。そうでしょう?ルシウスを罰するためなんでしょう!?」
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