HP and SB 1 ○アズカバン編

□9 bloody noel
3ページ/7ページ


目が覚めると、そこは荒れた建物のなかだった。埃を被った室内、傷だらけの壁。曇った大きな窓から差し込む光が、ハリーたちと別れてからあまり時間が経過していないことを教えてくれた。
自分の状況がわからずに手を動かそうとして、それが背中で縛られていることに気づく。そして自分が床に放られていることも。
困惑していると、足音とともに男が現れた。真っ黒で荒れまくった服装に身を包んだ男。
「‥‥‥‥お目覚めかい?オヒメサマ」
自分の置かれている状況がかなり芳しくないことを理解したレイは男に対して眼光を細める。
「何が目的なのかしら?」
「随分と落ち着いてるんだなァ」
否。緊張で心臓はバクバクとうるさく騒いでいる。それでも顔に出さないだけだ。そう思うだけの余裕はまだ持ち合わせていた。
「なんでだと思う?‥‥クルーシオ!」
「‥‥ァァァァァア!?」
瞬時、その余裕も打ち砕かれた。
突如放たれたのは拷問の呪文。体を突き刺す傷み。
「‥‥お嬢ちゃんにその力を譲ってもらいたいだけさァ!」
そう言って男は高々と笑った。レイの瞳に絶望が映ると同時に男が呪文を唱えた。


窓の外はだいぶ暗くなった。5時を過ぎたあたりだろうか。
と仮定すると自分は4時間ほどこの絶望に耐えていたのかと客観的に考える自分が不思議だった。
男はクルーシオの他、ナイフの代わりに杖で体を切っていく呪文や肌を焼く呪文を唱えた。切り裂かれる呪文のあとにクルーシオを喰らうとこれ以上にないと思われた痛みの上をいった。
男は狂喜に満ちた表情でレイを痛め付けつづけた。
抵抗の術ももたない少女はただただ悲鳴をあげた。しかしそれは男を悦こばす結果となった。
「‥‥だめだなァ、まったく変化がない。こんなにも体がボロボロなんだから魔力が移ってきてもいいのになァ」
床にふせったレイは男の方を視線だけ動かして見た。抵抗できないのをみて手の拘束はとかれたが、どうせ体は動かない。
「今までのやつもそうだった。殺しても魔力は移らない。だから殺すのは最後の最後じゃなきゃあ失敗したらもったいない」
男は部屋のなかをうろうろしながらぶつぶつ呟いた。
「痛めつけたりねぇのかと思ったが違うのかァ?まあいい、次の段階だ」
そういうとしゃがんでレイの髪をひっぱり顔を覗きこむ。
「しかしなかなかこれは楽しめそうだなァ。ガキだがこんな美人はみたことがねぇ」
その嫌らしい視線に悪寒が走る。とっさに動かない腕で後ずさる。
「嬢ちゃん、契りを結ぼうじゃねぇか」
瞬時唇に生暖かいものが触れた。
同時に襲いかかる吐き気。
レイは状況だけに普段の穏やかさもなく男の唇を全力で噛んだ。
「‥‥ッ!」
一瞬離れた男が今までと比べ物にならない睨みを効かす。
「いいご身分だなァ、嬢ちゃん」
「‥‥たす、けて‥‥」
呟いた言葉は勿論目の前の男に対してではない。
「しっかり体にも心にも叩き込んでやるよ」
思い浮かべたのは、赤毛の双子。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ