HP and SB 1 ○アズカバン編

□12 木の葉舞う街で
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珍しい風景に目を奪われつつ、朝の住宅街を二人は歩いた。
四キロを過ぎた時。まわりと同じ白く瓦がのった外壁の横を通りすぎている瞬間に、一瞬強すぎない程度の風が吹き抜け空気が変わった。
そして目の前の道に着物を着た10歳くらいの女の子が現れる。
「‥‥ねさんろっかくたこにしきー、しあやぶったかまつまんごしょうー」
見えるはずの距離にいたのに見えなかった女の子。女の子は綺麗なボールのようなものをついて遊んでいる。そしてその口ずさむ歌に合わせるように木の葉がくるくると舞っていた。
「ここからは魔法属のテリトリーみたいですね」
そういって身長差のあるルーピンを見上げると、彼は女の子から目が話せなくなっているようだった。
「‥‥はっちょうこえればとおじみちー、くじょうおおじでみちひらくー‥‥」
「ルーピン先生、どうかしました?」
「‥‥‥‥‥‥」
「ルーピン先生?」
どうやらルーピンにはレイの声がまったく聞こえていない。
コートの端を引っ張ってみるも万能はない。
「ルーピン先生!‥‥リーマス!」
「‥‥‥‥!」
そこでルーピンはふと我に帰る。
「えっと‥‥どうしたんです?」
「え、いや‥‥すまないね。先を急ごう」
なんだかよくわからないがルーピンが普通に戻ったので良しとした。
「やっぱりさっきまでとは違いますね。マグルの道具の進歩がないぶん、時代錯誤な感じがします」
「‥‥そうだね、その分なんというか、まったりしている」
確かに光がオレンジがかったような柔らかいもので、道行く人もそんなに急いでおらず、全体的にまったりという言葉があっていた。
が、しかし。
「なんていうか、怪しげな人が増えてきました」
「今から取りに行く杖は日本民族にとっては最強のものらしい。それを狙った輩かもしれないね。だとしたら目的地は近いな」
声を潜めて聞いたレイは、日本人にとって最強ということに目を丸くする。
「それでも殺気は感じないね。狙いに来る人が多いからかもしれない。これは杖を回収できても帰りの方が怖いな‥‥」
「殺気‥‥」
「私から離れないで。近くに」
レイはルーピンの近くによってコートの端を握った。
そのうちに建物の裏側の外壁に突き当たる。それが他の住居と違うとわかったのは踊るように舞う木の葉の動きでだった。
「木の葉が‥‥この外壁の少し手前で跳ね返されてますね」
「第二の結界ということかな。ともすればこれが目的の神社だ」
外壁の手前には何人かが地べたに座り込んで眠りこけているようだった。
試しにルーピンが結界があるとおぼしき所に手を伸ばすと、案の定それ以上先には伸ばせなかった。眠りこんでいるうちの一人は結界を背もたれにしている。
「‥‥前に回ろう」
二人は警戒しながら表に回った。表にはさらに多くの人間が疲れたように居座っていた。
「どうやって入りましょう?」
レイが困ったように聞く。
「ダンブルドアの話では‥‥君だけが杖を手に取れると。もしかしたら、君なら結界のなかに入れるんじゃないかい?」
さっきと同じようにレイは目を丸くした。
それからルーピンのコートを握っていない手で、おそるおそる結界があるとおぼしき所に手を伸ばす。
と、
「あら?あらあら?」
なにもない。否、当たらない。
そのままレイは体を動かした。そして結界を抜ける。コートを握られたままのルーピンもつられて入る。
「‥‥正解だったようだ」
ルーピンは油断なく結界の外を見た。まだ結界に寄りかかって寝ているものがいるから、他の者にはまだ有効らしい。しかし何人かが目をしばたかせているから、消えた二人を見てしまったのだろう。ともすればやはり油断ならない。
「こちらみたいですね」
レイは本殿らしきものを指差した。
すべて木造でどこか寂れたその神社は、そんなに大きいわけでもなくこじんまりとしたものだった。
じゃりじゃりと鳴る石を踏みながら二人は建物に向かう。そしてルーピンが持参したお賽銭を投げ込み、一通りのお参りをする。(ルーピンはレイを見よう見まねに。)
「さて、勝手ではありますが入らせて頂きましょうか」
そういうレイに頷き、二人は靴を脱いでお賽銭箱の向こうの扉をあけた。当然ながら人の気配はない。
部屋の真ん中にはテーブルがあり、その上には緑の葉っぱが飾られた花瓶と蝋燭、そして箱が置かれていた。
順当に近づくと、箱のなかには当然のように杖。
「これで間違いないですよね?」
「ああ、そうだろう。箱に何か書いてある。‥‥読めない」
「ええと、わたしにも読めないです。出雲の神木梛に、なにかの羽‥‥なんて読むのかな?」
「杖の特徴かな。まあいい。レイ、杖を取ったら裏口から逃げることとしよう。外壁を飛び越えて」
ルーピンは自身の杖を構えながらいった。
「もしかしたら杖をとったら結界が破られるのかも。だからあんなにも多くの人が外で待っているのかもしれない」
「‥‥わかりました」
「覚悟はいいね?万一戦闘になったら、容赦なく相手を討つこと。手加減すれば君もわたしもイギリスには帰れないからね」
レイは頷いた。ルーピンも頷き返す。
それをみたレイは杖を手に取った。
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