HP and SB 1 ○アズカバン編

□12 木の葉舞う街で
4ページ/8ページ


瞬時、突風が押し寄せた。旋風。
一瞬遅れて近づいてくる足音。
「逃げるぞ、レイ!」
「はい、先生!」
二人はすぐさま建物をでて来た方と反対に逃げる。が、前方からも五人ほどやってくる。
「スティーピュファイ!」
レイが一人は麻痺させる間にもルーピンは盾を作り、二人吹き飛ばした。
前方からやって来た男が和傘をこちらにむけると、火の粉が向かってきた。
「つ‥‥!アッグァメンティ!水よ!」
水で消し去り続けて無言呪文で武装解除する。
隣ではルーピンがもう一人を麻痺させていた。
しかし後ろからの足音も近い。
「エンゴージオ、肥大!」
レイは走りながら外壁の前に転がる石に肥大呪文をかけた。二メートルをこす外壁はそのままではレイは越せない。
と、うしろから声。
「いたぞ!」
「‥‥くそ、追い付かれた!」
追手は10人以上。しかもすぐ攻撃にでる。
「‥‥っ!」
一瞬の判断で右に跳躍したが、もといたところの地面が大きく抉れる。
咄嗟の跳躍でバランスを崩し防御ができなくなったレイを更なる呪文が襲うが。
「‥‥っ!いいかいレイ、これが殺気だよ。わかるね?」
ルーピンはレイの前に立って応戦しながら言った。
「‥‥‥‥はい!」
立ち上がったレイはルーピンと背中合わせで応戦する。
能力としてはルーピンがずば抜けている、とレイは思った。
ただ、いかんせん相手は数が多い。そして相手の使う魔法は自分達の使うものと違っており、その対応は難しかった。
「ペトリフィカス・トタルス!石になれ!」
一人を石にする間にも3人追っ手が増える。
「‥‥っ!」
と、追手のうち二人がなにか示し会わせて同時に手に持つものを振った。一人は杖を、一人は扇子を。
と、同時に左腕に痛み。すぐにルーピンの盾が防いでくれる。左腕を見やると、ベージュのコートに深紅が広がっていくところだった。それでもコートに傷はついていない。
一瞬コートとスネイプに感心していると、横のルーピンのコートも右の脇腹あたりが染まっているのがわかった。破れたそこからは生々しい傷が見える。と、自分のときには感じなかった恐怖が甦ってくる。
《ディフェンド、裂けよ‥‥ッ!》
《‥‥やあぁぁぁ!》
叫びの屋敷での恐怖。血塗られたクリスマス。
痛くて苦しくて狂ってしまうと思った。死んでしまうと思った。無意識に口からでる助けを求める台詞とは裏腹に、頭ではだれも来ないでと願った。
ルーピンたちが来たとき、彼らも死んでしまうと思った。彼らの死が怖くてどうしようかと絶望した。
途端に震えが止まらなくなる。動けなくなる。
このままではルーピンが死んでしまうかもしれないのに。
「‥‥レイ?どうした?大丈夫か!」
様子が変わったレイに気づいたルーピンは焦る。
「‥‥‥‥ぃや‥‥!」
《クルーシオ!はっはっは‥‥!》
《嬢ちゃん、契りを結ぼうじゃねぇか‥‥》
フラッシュバック。そんな言葉を聞いたことがあったが、実感したのは初めてだった。
このままではまずいのに、動かない体。
どうしよう、どうすれば、怖い、動けない‥‥
「レイ!」
と、目の前にはルーピンがいた。
「‥‥へ?」
「どうしたんだ?大丈夫かい?」
肩に手をのせてこちらを覗きこんでいたルーピンは、レイの震えに気づく。一瞬驚いたあと、優しく抱き止めてくれた。
恐らく時間にして10秒ほど。しかしレイは充分に落ちついた。
「落ち着いたかい?」
「ご、ごめんなさい‥‥」
そういって回りを見回すと追手はみな倒れていた。
自分がどれくらいパニックに陥っていたのかはわからないが、ルーピンの強さに驚く。
しかしそうしているうちにも更なる足音が近づいてくる。
役立たずな自分が悔しくて仕方がない。自分のせいでもしかしたらルーピンが大事を負ったかもしれないのに。
「‥‥いこう!」

ルーピンはそういって、二人は壁に向かった。
レイは先程肥大させた石を踏み台に、ルーピンは腕をかけて一息に壁を越える。
しかしそこにも追手は待ち構えていた。
ルーピンはすぐさま杖を大きく振って数人を倒れさせる。
プロテゴを発動させながらレイはふと思い立ってコートから先程取った梛の杖を取り出した。
この杖は日本人にとって最強のものらしい。ここまでの追手がくるほどに。ならこの杖でなら、自分は強くなれるのだろうか?
右手でプロテゴを保持させながらおもむろに左手を構える。役に立ちたい。ルーピンに迷惑をかけないくらいの力が欲しい。
そして。
「アッグァメンティ!」
レイは力を込めて水の召還呪文を唱えた。
水はフォークスを模したような形で現れ、物凄い勢いを伴って目の前の人物をなぎ倒した。その勢いにレイだけでなくルーピンも驚く。そして普通ならそんなことはできないはずなのに、その水がフォークスの形をしていたせいか、レイは頭に浮かんだ呪文を唱えた。
「オパグノ、襲え!」
水の不死鳥は驚き固まる面々へと勢いよく突っ込み、片っ端からなぎ倒していく。
「‥‥レイ、いまだ!」
そういってルーピンはレイを掴むと、二人はフォークスにあとを任せて裏道に逃げ込んだ。


「‥‥はぁ、驚いたな‥‥」
ルーピンはレイの持つ梛の杖を見る。
先程から驚きの連続だ。
よくわからない戦い方をする追手。
パニックで動けなくなるレイ。
フォークスを模した水。
レイがパニックに陥ったのを見たとき、頭が真っ白になった。クリスマスのときと同じ目をした少女に、とにかく早く駆け寄りたくて、自分でも信じられないくらいの強さで相手を討った。
そこからの水の召還。
ただの水の召還ならもちろん自分でもできるし、彼女の知らないところで訓練をつんでいるあのナイトたちにもできるだろう。問題は水が形を成していたことだ。ダンブルドアならアグアメンティで召還した水を球体にして操れると聞いたことがある。それでもダンブルドアでも球体。
それをレイはまるで守護霊を操るかのようにフォークスにして操ってみせた。とても信じられない。
それでも、信じずにはいられない。彼女の可能性を。
「とりあえず適当な庭先にでもかくれよう」
「そうですね、地の利は向こうですから‥‥」
パニックから解かれたらしいレイは頷く。
二人は適当外壁をみつけ飛び越えた。ばれないようにするため、今度はルーピンがレイを抱えて。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ