HP and SB 1 ○アズカバン編

□12 木の葉舞う街で
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飛び込んだ庭はほどほどの広さで、人の気配はない。しげる椿の木の後ろにとりあえず二人は収まった。
「‥‥大丈夫かい?」
「‥‥はい、すみませんでした。わたしのせいで危うくイギリスに帰れなくなるところでした。最初に容赦なく敵を討てって言われてたのに」
レイは低い声で小さくいう。
「どうしてパニックになったのか聞いてもいいかい?今後のために」
遠慮がちに聞くと、レイはルーピンの破れたコートと傷の患部を見た。
「先生、その傷大丈夫ですか‥‥?」
「‥‥へ?あぁ、痛むが問題ないよ。今は動けるから大丈夫さ」
ルーピンはいつもの穏やかな顔で言う。しかしレイはいつもの穏やかな顔ではない。
「ディフェンド‥‥クリスマス、思い出してしまって‥‥」
ディフェンド。レイがトラバースにいやと言うほど受けた呪文。
「ああ‥‥」
ルーピンは納得したもののレイは続ける。
「あのとき、無意識に口からたすけてって言葉は出たんですけど、誰も来ないでって思ってたんです」
その言葉を理解するのにルーピンは一瞬とまる。
「痛くて、苦しくて、死が予想されて、それをほかの誰かが受けたらって思うと‥‥。だからルーピン先生たちが来てくれたとき、最初すごく怖かった 」
ルーピンは目を丸くした。
「杞憂でしたけれど。ルーピン先生がこんなにも強いってあのときは知らなかったから。でも、さっきその恐怖が戻ってきて‥‥。でもそれで動けなくなって、迷惑かけたら本末転倒ですよね。本当にごめんなさい」
ルーピンは一瞬考えてから、レイの頭を撫でた。
「君は優しすぎるよ」
レイは首を振る。
それから新しい梛の杖を持って、ルーピンの患部に当てた。
「エピスキー‥‥フェルーラ」
応急処置をしていると、頭上からルーピンの苦笑が聞こえる。
「‥‥?」
「寒いだろうけど、コートを少し脱いで」
言われた通りにコートを脱ぐと。
「あ、忘れてました」
ルーピンの腹部と同じ傷が左腕にあった。コートは破れていないが、その下のワンピースの袖と肌はぱっくり割れている。
「まったく、自分に無頓着なんだから。エピスキー、フェルーラ」
レイもつられて苦笑する。
と、壁の向こうを捜索隊がいくのがわかった。
「東寺道には見当たらないぞ!」
「まだ九条大路の捜索が終わってないはずだ!まさか八条にはまだ行ってないだろう!」
「‥‥‥‥!」
気づかれないように黙って固まっていたレイだが、驚いて声をあげそうになった。
というのは、いきなり隣に老婆が現れたから。老婆は驚いて声をあげそうになったレイの口を手でふさいだ。
杖を掴んだルーピンを手で制すと、老婆は壁を見て捜索隊が通りすぎるのを待った。
「入ってきたのが家でよかったねぇ。あなた葉月さんでしょう?」
老婆は優しく言った。背の曲がった、それでも可愛らしい笑顔を称えた老婆。
「え?」
葉月さん、と老婆はいった。たしかにレイの名前は‥‥
「レイ・ハヅキ・ダンブルドア‥‥」
呟いたのはリーマス。日本語のわからないリーマスでもハヅキという言葉だけは聞き取れたらしい。そして老婆は頷く。
「家においでなさい。私らは杖を狙ってなんぞいないから」
レイはルーピンを見上げて英語で言う。
「家においでって。杖は狙ってないって。‥‥ルーピン先生、どう思います?」
「‥‥‥‥ここにいても仕方ない。お言葉に甘えよう。悪い人じゃなさそうだしね」
二人が頷くと、老婆は可愛らしい笑顔をさらに深めて建物に案内した。

典型的な日本建築につくと、老婆は二人を二階に通した。出窓のある二階で、二人は外から見えない位置に座る。
部屋にはレイが入れそうなくらい大きな器があって、そのなかには灰がたっぷり入っており、その上で墨が燃えていた。
老婆は隅の上にやかんをかける。
それから机の上の紙を一枚とって、ハサミで適当な人形に切った。そして杖で紙になにか呪文を唱えると、それをルーピンに渡す。
「私の言うことが聞こえますかね?」
老婆が日本語ではなすと、同時に人形の紙は英語でそれを伝えた。
「え、ええ‥‥」
驚いたルーピンがイェスというと、紙はルーピンの声で日本語に訳す。
「ふふ、便利でしょう?」
老婆は笑った。
「私は大したもんじゃあないけれど。十条のものなんで十条と呼んでくれたらいいよ」
「十条とは地名ですか?」
そうですとも、と十条はいった。
「二人とも、少しここに隠れてなさい。ろくでもない追手から逃げているんでしょう?梛の杖は建国の一族にしか手に取れないし、使えない。なのに愚かな者たちだこと‥‥」
建国の一族のところでレイが今日何度目かの真ん丸い目を披露するが、十条は気づかない。
「さて、その間にコートを洗いましょう。代わりの服があるといいんだけどねぇ。何せ年寄りの家だから。でも血がついてたらやっぱり目立つからね」
そういって十条は二人のコートを取った。
「応急処置はできてるみたいねぇ。お茶でも飲んで待っていてちょうだいな」
十条が階段を降りていったのを確認してからレイはルーピンに向き直る。
「建国の一族って‥‥」
「私も多くは知らないからなんともいえないんだがね、君は神の国建国の一族の末裔らしいよ」
「!?」
さすがに驚かざるを得ない。たしか図書館でドラコやハリーたちと話したときにロンが言っていた。日本建国の一族は多大な魔力をもっていてなんとかと。
「だからこの杖を持ち主に戻すべく、今日ここに来たのさ」
まったく話についていけないレイは、お茶をのんで間を持たす。
と、十条が洗い終わったコートを持って上がってきた。そして火のちかくに紐を張ってかける。
「ありがとうございます、十条さん」
「ありがとうございます。名乗り遅れてすみません。自分はリーマス・J・ルーピンと」
「ルーピンさんね」
十条は茶菓子を出しながら座った。
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