HP and SB 3 ○騎士団編

□8 in your arms
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「お前は騎士団側で、僕は帝王側だ。その事実は揺らがない──僕はダンブルドアと父上ならば、父上を信じる」
「うん……」
「だが、──ホグワーツでは別だ」
ドラコは急にレイの方を向いた。
「アンブリッジ先生がグリフィンドールの授業で言ったと聞いた──ここは学校で、現実世界ではないと。あの人については今は言わないとして、僕はこの言葉に少し……救われたんだ」
ドラコの微笑みはいつになく優しかった。

「ホグワーツでは……ここでなら、僕たちは迫り来る現実から逃げることができる、そう思った。ここでは僕とお前……お前たちは敵ではなく──ただの生徒、友人にすらなれるんだ」
レイは微笑み返した。
「ええ……ええ、そうよね」
レイは嬉しくなってドラコの肩に頭を乗せた。
「よかった……ドラコが優しい人でよかった」
「優しい人がグリフィンドールのチームに野次を飛ばすのか?」
「もう。それはダメよ、スポーツマンシップってのをもたなきゃ」
レイとドラコは小さく笑った。

「そうだ、今度のホグズミードなんだが──」
ドラコは自分の肩に頭を預けて木に寄りかかって座るレイを見た。
「…………」
そこにはすやすやと無防備に寝るレイ。
「……まったく」
ドラコは苦笑しながらレイの膝裏と背中に手を回し、芝生の上に寝かせる。それから自分も横たわり、そっと自身の左腕をレイの頭の下に差し込んだ。
仰向けに寝かせられていたレイはドラコの腕という丁度よい枕を見つけてコロンと横向きになる。

「頑張りすぎなんじゃないか、レイ」
向かい合う形になったレイの顔には色濃い疲労が浮かんでいた。
「それから……」
ドラコは自由のきく右手で、その真ん前に位置するレイの左肩にそっと、本当にそっと触れた。
びくっと震えるレイの体。しかしなんとか目覚めなかった。
「僕が気づかないもんか。何かあるんだろう?」
穏やかな寝顔のレイに小さな声で囁きかける。
「…………大丈夫なのか?」
ドラコは本当に心配だった。ただ今は無垢な顔で眠る──まさにレイらしい顔で眠るレイを──見守ることしかできなかった。



レイは目を覚ましてぱちくりと数回瞬きをした。なにせ、意味がわからなかったのだ。
「え──え?え?」
レイははっとしてあたりを見回した。
「嘘──夜?」
あたりは暗かった。ただ顔のあたりはほわりと照らされている。
「え?えぇ?」
「起きたか。あと数分遅ければ寮まで抱えていくところだった」
レイが驚いたそのままの顔で前を剥けば、芝生に肘をついたうつ伏せの体勢で本を読むドラコがいた。ほわりとした灯りはドラコの手元のガスランタンだ。

「紅茶だ。9月とはいえ外は冷える」
ドラコはポットから湯気を立てる紅茶をカップに注いだ。レイは差し出されたそれを素直に受け取りながら狼狽する。
「え、どういうこと?」
「ティーセットや灯りは寮から呼び寄せた。杖先のルーモスは読書には向かないからな」
レイは体を起こそうとして、自身に掛けられた上等そうなブランケットに気づく。
「わたし、いつ寝た?」
冷や汗をかきながらドラコに聞けば、ドラコは涼しい顔で答える。
「昼の二時頃かな」
「今は……?」
「八時すぎだ」
レイは開いた口が塞がらなかった。

「え…あ…ドラコ、ごめんなさい……ずっと付き合わせてた……?」
ドラコはにやりと笑った。
「まあね」
「うわあ!ごめんなさいぃ!!」
レイは思わず叫んだ。ドラコはそれをみて笑う。
「いやいい。役得でもあった」
「なんとお詫びすればいいか……大切な土曜日を……」
「グリフィンドールチームを見て過ごしても無駄な1日だったはずだ。それよりずっといい」
穴があったら入りたい。
そんな面持ちでレイは自分を責めた。
「それにだいぶ顔色が良くなったな、うん。帰るぞ、城に」
レイは頷いた。

「……起こしてくれてよかったのよ?」
レイはドラコの横を歩きながら言った。
「起きなかった、と言ったら?」
ドラコは起こそうともしていないのに白々しくいう。
「うわぁ、自己嫌悪……」
「いやっ、違……これは例えばの話だ」
しかしなお一層落ち込むレイに急いで訂正した。
「起きなかったなら、置いて帰ってもいいわ。こんなに付き合わせるなんて、そんな……」
「置いて帰るなんてできるわけないだろう……まったく……」
ドラコは心底呆れたように言った。そんなドラコが心配性なことを思い出したレイは、少し黙ってから頬を緩めた。

「ドラコ」
レイはドラコを呼んで自分の方を向かせる。
「……ありがとう」
心からにっこり笑ってレイは言った。
「…………」
ドラコはなにも言わずに微笑んで、レイの頭を撫でた。
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