HP and SB 3 ○騎士団編

□9 I must not tell lies.
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訪れる底冷えするような完璧な沈黙。
「…………ミスルーピン」
レイはどうにかしなくてはと思って行った判断が、最善のものではなかったことに気がついた。しかしどうしようもなく、握りしめたままのインクを染み込ませた羽ペンをさりげなく置く。
「……杖を持っていたのですか」
アンブリッジはレイの両手を睨みながら言った。
「あー……」
レイはとりあえずにへらと笑って答える。
「あれですね、未就学児がやっちゃう魔力の暴走的なやつです。杖は鞄の中だし。なんだか懐かしいわ……はは」
全力で下手くそな言い訳をするレイに冷たくアンブリッジが返した。
「未就学児が魔力の兆候を表すころ、あなたは寝ていたんじゃなかったの?」
「あ……いわれてみれば、そうですね」
無理のある状況に、冷たく言い返すこともできず、レイはレイらしくほわりと笑った。

ハリーも度肝を抜かれて熱が覚めたようだった。それを横目にレイは苦笑を続ける。
「えっと、すみません、先生……はは」
「そんなにあの父親が誇りですか?──あなたにはもう一週間罰則を科した方がよさそうね、ミスルーピン」
なんだかレイの奇行の原因を勘違いしたらしいアンブリッジが、滑らかに告げた。
「あ、はい」
レイは否定もせずに頷いた。ハリーが何かを言いかけたので、足を踏んで黙らせた。
「また五時にいらっしゃい」
「かしこまりました」



「もう!なんで癇癪を起こすの!」
授業が終わるとハーマイオニーがハリーに切れた。
「でも今回の引き金はハーマイオニーよ。確かに授業が無駄で抗議したい気持ちはわかるけれど」
レイは珍しくハーマイオニーを否定した。
「それは!……ごめんなさい」
ハーマイオニーはため息をつきながら謝った。
「僕も悪かったよ。ごめん」
ハリーもレイに謝る。
「いいの、ただの書き取りだから。休憩時間みたいなものよ」
その言葉にハーマイオニーとハリーはほっとした表情を見せた。



が。レイの左鎖骨下の傷は殆ど癒えていない状況だった。朝には出血していた程だ。
それでも夜の罰則で、レイは決して泣き言を言わなかったし、あのときのように表情にも出すものかと心に決めていた。
I am not meと何度も繰り返し書きながら、一文字ずつ傷が深くなっていっても、一言も声を漏らさなかった。



翌日、一睡もしないまま迎えたレイはそれでも土曜日のドラコのおかげか調子がよかった。
その日呪文学はいつも通りだったが、変身術は異なっていた。マクゴナガルの教室にはアンブリッジがいたのだ。
「いいぞ、アンブリッジがやっつけられるのを見てやろう」
ロンは意気揚々に言った。
マクゴナガルはアンブリッジがそこにいることなどまったく意に介さない様子だった。

「静かに。ミスターフィネガン、こちらにきてみんなに宿題を返してください──ミスブラウン、ネズミの箱を取りに来てください──バカな真似はおよしなさい、噛みついたりしません。一人に一匹ずつ配って──」
「ェヘンェヘン」
アンブリッジは最初の夜のように、バカバカしい咳払いという手段を取ったが、マクゴナガルは無視した。
レイは気まずそうなシューマスから課題を受け取った。右上にはOと書かれている。

「さて、それではよく聞いてください──ディーン・トーマス、ネズミに二度とそんなことをしたら罰則ですよ──カタツムリを消失させるのは、ほとんどのみなさんができるようになりましたし、まだ殻の一部が残ったままの生徒も、呪文の要領は呑み込めた様です。今日の授業では──」
「ェヘンェヘン」
再びバカバカしい咳払いが響いた。
「何か?」
マクゴナガルは厳しい表情で振り返った。
「先生、わたくしのメモが届いているかどうかと思いまして。先生の査察の日時を──」
「当然受け取っております。さもなければ、私の授業に何の用があるのかとお尋ねしていたはずです」
そういうなり、マクゴナガルはアンブリッジにきっぱりと背を向けた。

「先程言いかけていたように、今日はそれよりずっと難しいネズミを消失させる練習をします。さて、消失呪文は……」
「ェヘンェヘン」
今度の咳払いで、マクゴナガルはアンブリッジに向かって冷たい怒りを放った。
「いったいそのように中断ばかりなさって、私の通常の教授法がどのようなものか、おわかりになるのですか?いいですか、私は通常、自分が話しているときに私語は許しません」
アンブリッジは横っ面を張られたような顔をして、一言も言わず、クリップボードに猛烈に書き込んでいた。
生徒にやってみるようにマクゴナガルがいったあと、どの生徒もにやにやと笑いながら友人と視線を交わしていた。もちろん四人も例外ではない。
今回も一発目で消失呪文を成功させたレイは気づかれないようにアンブリッジの動きを目で辿っていた。

「ホグワーツで教えて何年になりますか?」
「この12月で39年です」
アンブリッジはやや恐れをなしたのか、それ以上の質問はしなかった。
「査察の結果は10日後に受けとることになります」
「待ちきれませんわ」
マクゴナガルは無関心な口調で冷たく答え、教室を闊歩してまわった。
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