HP and SB 3 ○騎士団編

□14 paralysis
6ページ/9ページ



「逃げるのかね?」
フィニアス・ナイジェラスだった。額縁からこちらに話しかける。
「逃げるんじゃない、違う」
ハリーが短く返した。
「アルバス・ダンブルドアからの伝言があるんだがね」
ハリーはそこでやっと、フィニアスの方を向いた。
「どんな?」
「動くでない」
「動いちゃいないよ!それで、どんな伝言ですか?」
ハリーはむっとしながら聞いた。
「いま、伝えた。愚か者。ダンブルドアは、"動くでない"と言っておる」
ハリーは茫然とした。

「それから、そこの日本人。お前にもだ"動くでない"と」
「あっそう」
レイは自分の声が随分冷えていることに気がついた。結局のところ、レイはハリーを利用してこのウィーズリー家のクリスマスから離れたかったのだ。見破られたのかもしれない。
ハリーはフィニアスと暫く口論していたが、諦めたようだった。トランクを放り投げてレイを睨み付けたので、レイは肩をすくめて部屋から退散した。



翌日、レイは朝方に薬で三時間寝ると、さっさと起き出した。つい慣れない場所で寝たので、目覚めた拍子に部屋のすみにある鏡台と鉢合わせる。
過去を知って以来、レイは鏡を見ないように心がけていた。寝癖のつかない髪質なので、櫛で鋤く時に見る必要もなかった。昨年までのように簪を使うこともなかったので、その出来映えを見ることもなかった。久しぶりにみた自分は自分が思っているよりげっそりしていた。

でもそれでも、げっそりしていても、より淡い色の肌と髪と目でも、レイはやっぱりミオそのものだった。あり得ないほどに似た姿。フレッドとジョージやパーバティとパドマの様だ。しかし生まれた年が17年離れていなければ。
「……気持ち悪い……」
レイはぼそりと呟いた。ああ、気持ち悪いな、と心底思った。



部屋で幾つか魔法薬を煎じてから、遅めの朝食に降りることにした。なにせ食べ物の匂いがキツいのだ。調理中なんてたまったもんじゃない。
そこで四時間ほど時間を潰してから、10時頃に厨房に降りた。そしてそこにいる人物に目を丸くした。
「やあ、レイ。久しぶりだね」
「……リーマス……」
リーマス・ジョン・ルーピンその人は、この3ヶ月何の音沙汰もなかったと思えないほど自然にそこにいた。

「レイ、あなた食が細い時でも、果物なら食べられるってジョージが言ってたわ」
モリーは降りてきたレイに林檎のカットと紅茶を置いた。レイはそれが置かれた、リーマスの斜め前の席に座る。
「六階から落ちたんだって?大丈夫だったのかい?」
リーマスはいつもの優しげな雰囲気で聞いた。
「ええ、大したことないわ」
レイは微笑もうとしたがほとんど無表情に近いものになった。
「大丈夫なもんか。頭蓋骨割れてたんだぞ!」
隣に座るシリウスが吠えるように言った。
「みんな頭蓋骨頭蓋骨ってうるさいのよ。ただの骨折」
レイはうんざりしながらセブルスに言ったのと同じ主張をした。うるさい、という言葉がレイから出てきたことに、厨房にいた何人かは驚いたようだった。

「でも暫く包帯が取れなかったって──私も行けたらよかったんだが──」
「ご心配には及ばないわ」
レイはリーマスの言葉を遮った。今度は多分上手く微笑めた。今さらありきたりな言葉は聞きたくない。
「それにしてもお前、ここに来たときから思ってたが、どうしたんだ?体調わるいんじゃないのか?」
シリウスは訝しげに聞いた。
「普通よ」
「普通じゃない。血の気が全くなくて死人みたいだぞ」
「ちょっと失礼ね、シリウス」
レイはむっとしながらフォークで林檎を刺した。よくよく噛んで飲み込む。

「まさかあのばばあにまた罰則くらってるんじゃないだろうな?」
シリウスはなおも食い下がる。
「あれ以来罰則は受けてないわ」
レイはため息をついた。
「この前は図書館で意識を失ったって聞いたけれど……」
再びリーマスが問いかけてきた。レイはまたむっとする。
「誰に聞いたの」
「マクゴナガル先生にだよ」
レイはマクゴナガルの代わりに林檎を睨み付けた。

「別に。疲れか貧血かなにか。そう大したことじゃないのよ」
「でも日本人信仰の関連なんだろう?」
レイはうんざりしていた。なんとか林檎をすべて食べ終わり、紅茶を一気に飲む。
「全部些末なことよ。一々気にしてたらやってられないわ」
シンクに皿とカップを運ぶと手早く洗った。
「わたし、今日なにかやることある?」
布巾でそれらを拭きながら顔も向けずに聞いた。
「いや、これといっては……」
「ならハリーのところにいるわ。塞ぎ混んでいるようだから」
レイはそう言い切ると、誰の顔も見らずにさっさと厨房をあとにした。

「レイ史上最悪に機嫌悪いな……」
フレッドがバタンと閉められた扉を見ながら言った。
「ああ、ありゃどうしたんだ?」
ジョージも肩をすくめた。リーマスはため息をついた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ