HP and SB 3 ○騎士団編

□14 paralysis
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レイはまたしてもノックをせずにハリーとロンの部屋に入った。
「……どうしたの」
ハリーは布団にくるまれたまま聞いた。
「悪いんだけどここにいさせて欲しいの。一人になりたくて」
レイはさくさくと答えた。
「一人って……僕もいるけど」
ハリーは機嫌の悪いレイに素直に驚きながら起き上がった。
「ちょうどいいじゃない。ひとりだとみんな放っておいてくれないでしょう?」
「うん……まあ。でも僕は自分が君を襲うかもしれないって不安なわけだけど」
ハリーはレイを刺激しないように言った。
「何なら襲ってくれて結構よ」
レイはつんとして答えた。
「………わかったよ」

ハリーが認めると、レイは後ろ手に部屋の鍵を閉めた。それからハリーのベッドに向かってその足元に腰かけた。
「え、ここにいるの!?」
「そう。勝手にロンのベッド使うわけいかないもの。この部屋何にもないし。ハリーはどうぞ寝てて」
言った後で、椅子を出すことなんて雑作もないなと思ったが、ハリーはしぶしぶ頷いた。



それから何の言葉を交わすでもなく、お互い静かに考え事に耽った。
昼食時、モリーが下の階から優しくハリーとレイを呼ぶのが聞こえたが、ふたりは無視した。
夕方六時頃、玄関の呼び鈴が鳴り、絵画が騒ぎだした。誰が来たのだろうか。大して興味も沸かなかった。しかし数分後には、ドアを激しく叩く音で、虚をつかれた。
「そこにいるのはわかってるわ」
ハーマイオニーの声だった。
「お願い、出てきてくれない?話があるの」
レイはハリーと目を合わせてから、しぶしぶドアを開けた。

「なんでハーマイオニーがここに?スキーは?」
ハーマイオニーはやや笑いながら言った。
「あのね、本当のことをいうと、スキーってどうも私の趣味じゃないのよ」
廊下を上がってくる音が二人分した。
「だけどロンには言わないでね。あんまり笑うものだから……」
ハーマイオニーは声のトーンを下げた。
レイとしては困ったことになった。ハリーのためには、ハリーがみんなと和解する必要がある。が、レイの方はみんなと距離を置きたいのだ。

しかし予想外にその機会は与えられた。
「レイ、これスネイプから。あなたの肩の傷に効くかもしれないから試してみてって」
ハーマイオニーは小瓶をレイに渡した。
「あ……ありがとう。早速試してくるわ」
レイはにっこり笑うと、さっさと部屋から退散した。



その夜はさすがに夕食に顔を出さざるを得なかった。ハリーはすっきりしたらしく、夕食を楽しんでいた。レイは殆ど水を飲むばかりだったが、モリーはレイが降りてきたことにほっとした様子だった。
夕食後の落ち着いたまどろみは居心地が悪くて、レイは率先して台所の片付けをしていた。するとモリーが話しかけてくる。

「レイ……あの、あなたやっぱり、リーマス達のことには反対なのかしら……」
レイはモリーが何の話をしているのかわからなくてきょとんとした。
「リーマス達のことって、おばさま、何の話?」
モリーは言いづらそうに言った。
「リーマスと……トンクスの話よ」
「あの、さっぱりわからないんだけど……」
そこまでいうと、モリーははっとした。
「あなたが今日リーマスに冷たくしていたのは、そのせいじゃないのね?」
「冷たくって──違うわ。何の話?」
モリーは言葉を選んで慎重に話始めた。
「あのね、リーマスとトンクスってとてもいい雰囲気だと思うの──トンクスはリーマスのことを好きだと言っていたし、年齢差はあるけどいい組み合わせじゃない?」
レイは初耳な話に目を丸くした。
「それでね、もし──もしこのまま上手くいったらって思って。リーマスは結婚するとなれば、やっぱりあなたのことを気にするでしょうから、どうなのかしらって思ったのよ。やっぱり娘としては、お父様の結婚は──どうなのかしら?」
レイは内心とても納得していた。なるほど、リーマスがマクゴナガルと連絡をとりつつも、レイには連絡を寄越さなかった理由はそれか。

「全く気にしないわ、おばさま」
レイはにっこり笑った。
「だってリーマスはわたしの"本物のお父さん"なわけじゃないんだし、気にするわけないじゃない。ミオさんのことだって、もう20年も経ってるんだもの……いい加減前に進むべきだわ」
レイはわりと本心からそう思った。
「そうよね、そうだと思うわ……」
モリーはほっとしたように笑った。
あの養子縁組解消の書類はやっぱり必要だった、とレイは思った。
ただの娘ならば別に大した問題ではないかもしれない。が、レイには決定的な問題がある。
かつて付き合っていた人と同じ顔の娘を側に置きたいはずがない。新たな人がいるならば。
レイは冷たく目の前の皿を見つめた。
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