HP and SB 3 ○騎士団編

□15 lost memory
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「何がお前をそうさせた?何がお前を変えたんだ?」
「しらない」
シリウスは真剣な眼差しで聞いてきたが、レイは軽く首を傾けただけだった。


「──レイ、どうして言ってくれないんだ?今回のことだけじゃない、肩の呪いのことや、アンブリッジの罰則のことも──私たちじゃ頼りないのかい?」
リーマスが幾らか優しく言った。
「それは私たちだって思ってるわ!」
ハーマイオニーが声をあげて、テーブルに近寄った。
「私とハリーが罰則を受けることになるまで、レイは私たちにもただの書き取りだっていってたんだもの。それに、塔から落ちて、マクゴナガル先生に相談されて初めてあなたの体に刻まれた傷口を見たの──肩の呪いのこともそれまで知らなかった!」
レイはやはり何も言えなかった。


「どうして周りを頼らなくなったんだい?周りは君を頼るのに──向こう見ずでひとりで突っ走るようになった。前の君はとにかく優しさで形成されていた様だったのに、今では憎しみや苛立ちが先行している」
リーマスは心から心配しているような素振りだった。それがレイにはなお沁みた。

「──君らしくないじゃないか」
そして、そのリーマスの一言が引き金になった。


バン!
勢いよくレイが立ち上がったので、椅子が倒れた。机に手をつく。
「"わたしらしい"って何──」
レイは冷たく、でも感情に揺さぶられた声で言った。
「わたしらしさなんてないの!そんなものいらない……!」

その勢いに誰もが唖然としていた。レイが今までに声をあらげた事はない。キレるときは冷たい声で相手を圧倒していたくらいだ。
「わたしはわたしがわからないの!」
だから息をあらげて叫ぶレイは完全に別人だった。

「レイ……あなたは、優しくて、穏やかで……努力家で、ほわほわって形容がふさわしいような優しい笑い方をする人よ……」
ハーマイオニーが恐る恐る言った。
「違う……」
「違わない」
ハリーがしっかりと肯定した。しかしレイは頭を振った。
「それは"わたし"じゃなかった!本当はそんな人間じゃない!」
レイは必死に否定した。

「この3年間のわたしが偽物だったのよ!偽物だったから、どんどん崩れていっただけ!ボロがでたの……!」
頭を抱えて狼狽えるレイにリーマスが声を掛けた。
「落ち着くんだ、レイ!」
「わたしは"レイ"じゃない!!」
レイは叫んだ。誰もが動揺する。
「落ち着け、君はレイだよ。レイ・ハヅキ・ルーピン、私の娘だ」
テーブルを回ってやって来たリーマスがレイの肩を持って向き直させようとした。レイはそのリーマスの腕を振り払う。
「違う!」
「なら誰だって言うんだい!?」
「わたしは……」
レイは一瞬戸惑ってから叫んだ。

「わたしは、ハヅキ ミオよ!!」

完全に場が凍った。誰も指先でさえ動かせなかった。
「……何を言ってるんだい、レイ」
「違う!レイじゃなくて……わたしは……」
レイは頬を伝う涙も拭かずに両腕を抱き抱えた。

「混乱してるんだ、レイ。レイとミオは別人だよ」
「……アクシオ!」
レイは部屋からポーチを呼び寄せた。震える手でその中身を取り出す。
「……何だい?」
「除籍……謄本……」
レイはそれをリーマスに突きつけた。シリウスも横から覗きこむ。
除籍謄本には振り仮名はふられていない。
「わたしの本当の名前は葉月澪(ミオ)……」
「「!!」」

本当のところでは戸籍での読みはレイなのだが、そんなことはよかった。
マグルの世界と共同の戸籍よりも、本当に肝心なのは一族としての名前だ。それはここでは証明できないのだから、戸籍を見せるだけでいい。特に混乱しているレイはそう思った。

「わたしは……葉月ミオの生まれ変わりで……葉月ミオの身代わり……闇と戦って死ぬためだけに要因された器なのよ……そんなわたしに"らしさ"なんてあるわけない……」
誰よりもリーマスが冷水を掛けられたような衝撃を受けていた。当然だろう、死んだ恋人の生まれ変わりだなんて言われたら。
だがそれ以外の人もかなりの衝撃を受けていた。


「……レイ……君は……」
ハリーが沈黙を破った。
「君は……引き出しを開けたの?」
レイは頷いた。
「ええ、思い出したの。全て」
レイは儚く笑った。


「……だが!生まれ変わりだなんて……身代わりだとは……」
シリウスが声をあげた。
「少なくとも身代わりとして育てられた。アルバスのところにいくまでは、ミオと呼ばれてミオの格好をさせられてミオの生き方をなぞって生きてきたわ。生まれ変わりっていうのは……証拠がふたつある」
レイは醜く笑って言った。

「ひとつはこの顔──生まれたときからあの人と全く同じ顔だった──」
「それは……だが……!」
「もうひとつにはね、シリウス……わたしにはミオさんの記憶があるのよ」
これ以上にないと思われた衝撃が、さらに走った。
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