HP and SB 3 ○騎士団編

□15 lost memory
4ページ/10ページ




シャー。
ベッドの回りに掛けられたカーテンが無造作に開かれた。
「……君か」
「お久しぶりです。具体的には半月ほどですが」
満月の翌日に怪我だらけになって帰って来たリーマス。夕食も終わった9時ごろ、うつらうつらしていると、無遠慮に隣との仕切りが払われた形だ。そこに現れたのはホグワーツ特急で同乗した、ミオという女の子だった。彼女とは決して反りがあわなかった訳ではないのだが、グリフィンドールとスリザリンに別れてから会話するのはこれが初めてだった。

「なんかぼろぼろだね。大丈夫?」
「あなたに言われたくありません」
ミオは見える場所だけでも額や腕に包帯を巻き、愛らしい顔にもコットンがでかでかと張られていた。奇しくも全てリーマスとお揃いだ。
「何かご用かい?」
リーマスが優しく言えば、レイは頷いた。
「はい、実はお手洗いに着いてきてほしいんです」
「……ん?」
リーマスは思わず聞き返した。

「医務室のお手洗いは現在故障中です。ご存知ないんですか」
ミオはつんつんとした口調で聞いた。
「いや……知ってるけど……」
「ので、外に行かなくてはなりません。慣れない場所、しかも古城ですよ。何が出てくるかわかったものじゃないじゃないですか。それで着いてきてほしいと言ってるんです」
レイの言葉にリーマスは苦笑した。

「怖いなら怖いって言えばいいのに」
「何か言いました?」
「いいや──わかったよ、行こうか」
リーマスは笑ってベッドから降りた。パジャマに適当なカーディガンを羽織る。ミオはストールを肩に掛けた。
「それで、ここから一番近いトイレって?」
「知りません」
「うわぁ……。まあ、そんなに珍しいものでもないか。二階をぐるっと歩けば見つかるかな。ルーモス」
こうしてリーマスとミオは医務室を後にした。


「あの、本当にここ二階ですか?」
「階段は登ってないし下ってないからそうだと思うけど……」
「私の知る二階と異なるようなんですが」
ふたりはトイレは15分ほどで見つけたものの、お決まりというか、医務室に帰れなくなっていた。

「もしかすると、別の塔に迷いこんだのかもしれないね」
「別の塔?」
「うん、例えば北塔とか。北塔は一年生では使うことがないから、僕ら二人とも見覚えなくても不思議じゃない」
比較的落ち着いた性格のリーマスと一緒で、ミオはほっとした。
「とにかくここもぐるっと回れば来たところに戻るはずだよ」
ミオは頷いた。

「夜だからって廊下に明かりくらいつければいいのに……」
ミオは歩きながらぶつくさ文句を垂れる。
「まあ、そんなことしたらみんなが寮から抜け出すからだよ」
「でも安全のため、防犯のためならそうすべきです」
しばらく歩いていると、ミオは立ち止まった。
「なんだか人の気配がしません?」
「え?そうかな……気付かなかったけど」
「ならいいです。行きましょう」
ミオはあっさり引き下がった。しかし、しばらく歩いていると。

「…………!!」
肩に何者かの手が置かれ、急いで振り返る。杖先の明かりを相手にバッと向けた。
「ちょ、眩しいって!おろせよ」
「シリウス!」
リーマスの声を聞いて、ああ、こんなやついたな、とミオは思い出した。
シリウス・ブラックとジェームズ・ポッターは手にマントのようなものを持って、そこに立っていた。


「夜分にご挨拶ですこと」
レイはふんっと鼻を鳴らした。
「おいおい、びびってんじゃねえよ」
シリウスはクックッと笑った。
「ふたりはどうしてこんなところに?」
リーマスは相変わらず穏やかに聞いた。
「君が入院してるから見舞いに行くとこだったわけ。君たちこそなんで南塔に?」
ジェームズが言うと、リーマスは目を丸くした。
「お見舞いって……いいのに。それにここは南塔だったのかい?寮のすぐ近くだ」
「お手洗いに行っていただけですよ」
ミオが言うと、シリウスとジェームズは笑った。

「トイレにわざわざ南塔まで?」
「実は迷っちゃってね」
リーマスが素直に言うと、ミオはリーマスを睨み付けた。
「にしてもお前ら、そっくりだな。何、二人で喧嘩でもしたわけ?」
リーマスとミオはお互いを見あった。それから左右対称に張られた自分の顔のコットンに触れる。
「ククッ……面白れぇ」
「あーもう喧しいですね。リーマス、行きましょう」
「おいおい、そっちはグリフィンドール塔だぜ?」
ミオはキッとシリウスを睨んだ。

「早く医務室に案内してください!」
結局その日は四人で医務室に戻り、シリウスとジェームズの持ってきたお菓子で騒いでマダムに叱られることになった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ