HP and SB 3 ○騎士団編

□15 lost memory
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その次の満月の翌日。
シャー。
「こんにちは」
「やあ、ミオ。そんな勢いよく開けて、僕じゃなかったらどうするんだい?」
今月も無遠慮に開けられたカーテン。
リーマスがそう聞くと、ミオは即答した。
「その時は、そのままの勢いで閉めます」
「あー……うん」
リーマスは失笑した。

「それで?」
「マクゴナガル先生のところにレポートを出しに行くのに着いてきてください」
「はいはい」
時刻はまだ8時。廊下にも明かりはついているはずだが、リーマスは素直に従った。
ローブをパジャマの上から着て変身術の教室の横にあるマクゴナガルの私室を目指す。リーマスはすぐにミオが左足を引きずって歩いていることに気がついた。

「足、大丈夫?」
「問題ありません。が、転けそうになったら支えてください」
ミオの堂々とした口振りに、リーマスは笑った。
同じ階にあるために、目的地にはすぐに着いた。
「確かに受けとりました。医務室まで送りましょうか?」
マクゴナガルは親切にミオにそう声を掛けた。
「結構です。実は友人に着いてきてもらっているので」
ミオは淡々と返す。
「友人?誰でしょう?」
そこまで聞くのは親切すぎる、というかお節介なのでは?とリーマスは思ったが、ミオは気を悪くした様子はなかった。
「グリフィンドールのルーピン君です」
「ああ、彼でしたか。わかりました、では気をつけて」
ミオは部屋から出て来て、リーマスににっこり笑った。



その次の満月の翌日、カーテンがシャーっと開けられることはなかった。それが何とも居心地悪くて、リーマスは消灯後、恐る恐る隣のカーテンを開けた。
しかしそこには畳まれた布団とシーツが置かれただけの、空のベッドがあった。
「そっか、いないんだ」
それはそれで良いことなはずだった。医務室に頻繁に居ることは決して良いこととではない。

グリフィンドールとスリザリンの合同授業は薬草学、魔法薬学のふたつ。その授業、それぞれの3分の1ほどをミオは欠席していた。自分と同じように何かしらの事情があるのだろう。しかし自分の事情を明かせない故、リーマスはミオに事情を聞けなかった。その頻度からして病気の様だが、いつも外傷があるのが気になる。最初の二月は、もしかしたらミオも自分と同じ人狼ではないかと考えた。しかし今日いないのならばそれは違うのだろう。



四ヶ月めの満月の翌日。
「よう!調子どうだ?」
「うん、大丈夫。ありがとう」
夕方にシリウスとジェームズが現れた。
「チョコレートたっぷり持ってきたぞー。あいつは?今日もいるかと思ったんだけど」
シリウスはリーマスに聞いた。
「あいつって、ミオ?さあ……どうだろう?」

リーマスがそう答えると、シリウスは勢いよく隣のカーテンを開けた。
シャー。
「ちょ……シリウス!」
隣のベッドが見えた。そこにはミオがいたが、今月はいつもと様子が異なった。熱の様で、真っ赤な顔に浅い呼吸で寝ている。
シャ……。
ジェームズがそっとカーテンを閉めた。
「彼女、体が弱いの?」
それからリーマスに問う。
「いや……聞いてないけど……」
リーマスは回答に困った。リーマスも驚いたのだ。



それから2ヶ月はミオを医務室で見かけなかった。事態が変わったのは3ヶ月後。
シャー。
「ご機嫌いかがですか」
「やあ、久しぶり」
いつもの勢いで、ミオがカーテンを開けた。しかし今月はリーマスの方がよくなかった。襲うものがいないあまり自分を襲った傷跡は深く、頭、頬、首、腕、足、至るところに包帯やコットンが巻かれていた。
「良くなさそうですね」
対照的にミオは、今月はほとんど傷もなさそうだった。

「痛そうですね」
起き上がることもできないリーマスにレイは言った。リーマスのベッドに腰掛けながら。
「私ははっきり言って優秀です」
「うん、そうみたいだね。いきなりどうしたの?」
淡々というミオに苦笑しながら、リーマスは聞いた。
「ですから、あなたが狼人間であることには気が付いています」
「…………!?」
リーマスは目を丸くして声を失った。

「あなたの傷は自分で自分を傷付けたものですよね?ですから私はあなたが自分を傷つけなくていいようにしてあげます」
未だ何も言えないリーマスに、ミオはしゃべり続けた。
「あなたが暴れ柳に向かっていくところを先月見ました。あの下に隔離施設があるわけでしょう?私が協力すれば、自分を襲う余裕もないでしょう」
「君は、何を言っているの……?」
リーマスは動揺を隠せない声音で言った。

「何を言っているのかといえば、あなたの怪我を軽減させる方法について話していますが」
ミオは何事もないように言った。
「君は、僕が怖くないの……?」
「怖くありません。力を持った人間は、狼人間を怖がる必要がありません」
「君は、自分が力を持った人間だというのかい?」
ミオはにやりと笑った。

「当然です。私は既に優秀な魔女です。経験値が足りないあまり、すこーしへまをする事がありますが、そこは大したことではありませんから」
リーマスは困った顔をした。憧れのホグワーツで、あっという間に自分の正体を見破られてしまった。しかも相手はだいぶ変わっている。

「ともかく来月の今日、また会いましょう。私はあなたが怪我をしなくてすむプランを考えておきますから」
「そんな、君に迷惑かけられないよ」
リーマスは言った。
「いえ、それはどちらかと言えば私の興味ですから気にしないでください。それではまた」
シャー。

ミオはカーテンを閉めると、荷物を持って反対側のカーテンを開けた。
「マダム、戻りますね」
「あらあら……無理はしないのよ」
そして医務室を出ていった。取り残されたリーマスは唖然としたままだった。
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