幕末恋風記[本編]
□三章# 会話一
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私が話し終えた後、山南は私を引き寄せて、謝った。
あやすように山南に背中を叩かれるけど、私の涙はもう出ない。
いずれは話さなければならないことだったのだから、山南が気にすることは何もないのに、この人は優し過ぎる。
「全部、終わったことですよ」
何か言われる前に山南を押し返し、私は目線を合わせて微笑む。
「だから山南さんが気にすることはなにもないんです。
もちろん、土方さんも沖田も原田も、近藤さんだって気にする必要はありません。
そう、伝えておいてくれますか」
たぶん聞きたがっているだろうけど、私は何度も同じ話をしようとは思わない。
まったく私を離す気配のない山南を、私は強く抱きしめる。
「心配かけてごめんなさい。
もう大丈夫ですから」
翌日の夢現だった私を止めたのは山南だった。
だからこそ、これほどに私を心配するのだろう。
それはとても心地良く、私には少し気まずい。
「私では、彼の代わりになれないかな」
「……え?」
「いや、嫌なら別にいいんだよ」
落ち着いているようでどこか慌てた山南の様子が面白くて、私は思わず笑ってしまった。
「山南さんがあの人みたいになったら困ります。
どうかそのままでいてください」
「そういう意味じゃなくてね」
困ったな、と笑う山南の姿が、私にはなんだか可愛らしく見える。
「私では葉桜君の支えにはなれないかな」
山南の思わぬ言葉に私が顔をあげると、至極真剣な目線と合ってしまって、本心なのだとわかる。
でも、私にはその意味が分からない。
ここに来てから一度だって私は芹沢を頼りにしたことなんてなかったのに、その代わりといわれても困る。
「すぐにというわけにはいかないだろうけど、その、もう少し落ち着いたら」
「あの山南さん?」
「ああもう私は何を言っているんだろうな」
「気持ちは嬉しいんですけど、私はここに来てあの人を頼ったりしたことは一度もないですよ。
それどころか大っ嫌いだったんですよ?」
それに芹沢の代わりというには、山南では気が優しすぎる。
「無意識だったのか……」
「へ?」
「まあ何かあったら話を聞いてあげるぐらいならできるから」
「はぁ」
だから何でも相談してくれって山南には言われたけれど、今までと私の状況は大して変わらないだろう。
ただそう言った後の山南が納得しているみたいなので、つまり今のままでいいってコトだと私は納得して笑う。
「山南さん?」
不意に一緒に笑いあっていた山南が私の頭を引き寄せ、自分の胸に押しつける。
「無理は、しなくていいんだからね。
葉桜君がいくら強くても、君は女性なんだから」
甘えてもいいんだよ、と言われて私は吃驚した。
山南は時々妙に鋭くて、困る。
「ははは、何言ってんですか。
その台詞はそのままお返ししますよ、山南さん」
腕を伸ばして、体を離した私はしっかりと山南を見上げる。
「山南さんこそ、もっと我を通してもいいですよ。
あなたは――優しすぎる」
私の言葉に少し戸惑う様子を見せた山南は、呆れた様子で笑った。
03.1.1# 〆
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