幕末恋風記[本編11-]

□十三章# 会話一
4ページ/5ページ

(葉桜視点)



 暗闇の中、目が覚めた。
 それもそのはず。

(な、なんで永倉に抱きしめられてるわけ?)

 必死に記憶をたぐり寄せ、永倉との問答を思い出す。
 たしか、梅さんが死んだと言われて、キレたんだ。
 それで、その。
 思い出せば思い出すだけ、顔が、身体が熱くなってくる。
 八つ当たりして、そんな私に永倉は珍しく優しい声で「泣いちまえ」って言ってくれて。
 それがまるで父様が言ってくれたみたいな気がして、そのまま泣きじゃくって、眠ってしまった。

(うわー、恥ずかしいっ)

 今すぐ穴掘って、さっきまでの自分を埋めてしまいたい。
 でも、とりあえずこの腕から抜け出すことが最優先だ。
 幸い永倉は私につられて眠ってしまったらしく、気持ちよさ気に夢の中だ。

 動こうとすると、ぐいと抱きしめる腕に力が込められる。
 まさか、島原で遊んでる夢でもみてんじゃないだろうな。

「……俺が、守ってやっから……」

 寝言だろうか。
 意外とこいつにも守る奴がいたんだなぁなんて、呑気に聞いていたら、名前を呼ばれた。

「……葉桜、一人で無理すんな。
 俺がずっと……」

 囁く言葉が、寝言だってわかるけど。
 その、一瞬固まったけど、守ると言われて嬉しくないわけじゃない。
 でも、守られてやるような自分じゃない。
 なんとか抜け出した手で、永倉の額をペシリと弾いた。

「い……ってェ……」

 痛がって緩んだ腕から抜け出し、その姿を見下ろす。

「ははは、隙だらけだぞ、永倉っ」
「……葉桜か」
「残念だったな、島原の綺麗な姐さんじゃなくて」
「……んなこたねェよ」
「無理すんなって」

 立ち上がったついでに縁側まで出て、両腕を天に突き上げ、大きく伸びをする。
 今日も綺麗な冬晴れの空が広がっている。
 いつ見ても変わらない空の色を、しばらく見ていなかった気がする。
 それだけ、余裕無かったってコトだ。
 本当に、綺麗な空だ。
 キレイで暖かくて冷たい空だ。

「永倉」
「あぁ?」

 今度は何だ、と不機嫌そうな男を顔だけ振り返って笑う。

「ありがとな」

 礼を言ったら、思いっきり顔を背けられた。
 でも、その顔がほんの少しだけ朱に染まっているようにみえたのは気のせいじゃないと思う。



13.1.1# 〆

十三章# 会話一# 〆

十三章# 会話二を読む
十三章「奸賊ばら」へ戻る
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ