幕末恋風記[本編11-]

□十三章「奸賊ばら」 # 本編
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----13.6.2-会見




 部屋の角に置かれた燭台がかすかに炎を揺らめかせる。
 だが、それは決して大きなものではなく、室内の人影をただ怪しく襖に映しているだけだ。
 ここにいるのは近藤、山崎と鈴花、そして私の四人。
 部屋を置いて、土方とそれから斎藤の気配もある。
 原田は油小路付近の指揮をとっているので、ここにはいない。
 永倉も同じくだ。

 これからここに伊東が会見に赴いてくる。

「何だかさぁ、滅入ってきちゃうわよねぇ。
 かつての仲間を裁判にかけるようなコトするってのはさ」
「まあ、確かに」

 山崎と鈴花のため息が聞こえてくる。
 私はまだ二人に何も話していないから、なんとなく会話に入ることも出来なくて、ただ二人の影だけを眺めていた。
 ゆらりと、それが揺れる。

「こらこら、二人とも。
 俺の目の前で堂々と文句言わないでくれる?」

 近藤がいつも通りの極軽いノリで言葉を発しようとして、失敗している。
 どことなく堅さの残るその声に心の中で、また謝った。
 才谷を守れていれば、私がしっかりしていれば、こんな事態を避けることだって出来たはずなのだ。

 ひとつの手練れの微少な気配が近づいてくるのを、目を閉じて感じる。
 彼にも説明する必要があるから、だから私はここにいる。
 伊東は信じてくれるだろうか。
 これからの話を。

 部屋に入ってきた伊東は以前にあったときとあまり変わりないように見える。
 ただ近藤と同じくどこか気構えた感じがあるのは当然だ。
 彼だって、当事者だ。

 今すぐ謝罪を述べてしまいたい自分を抑え、じっと近藤と伊東の会話を聞く。

「今日、お呼び立てしたのは他でもない、篠原さんの発言に関してです。
 あの人の発言で新選組は今てんてこまいなんですよ」
「ええ、そうでしょうね」
「ま、ぶっちゃけた話。
 御陵衛士が薩摩や長州と組んでウチをはめようとしてるつもりなのかってコトを聞きたいのさ」

 着飾らない近藤の言葉は軽いように見えて、酷く重い。
 その返答ひとつで命の灯火が消されることだって、伊東はわかっているだろう。
 だが、彼は笑う。

「ははは、率直な問いかけですね。
 いかにも近藤さんらしい」
「で、どうなんです?
 俺は伊東先生が正直なところを話してくれると信じてますから」
「もちろん、そのつもりで来たんです。
 篠原さんの発言がどういった意図で出たものかもご説明しますよ」

 伊東の説明にはたしかにうなずけるところがあった。
 私もその立場に置かれれば、当然新選組がやったものと思い込んでしまいそうだ。

「今度はこちらから質問させてください。
 私たちが疑問に思っているのは、近江屋にいた原田くんたち三人と、葉桜さん、大石くん。
 この五名のあの日の動向です。
 そして、何よりはっきりさせたいのは、本当に新選組が坂本さんを襲ったか否かです」

 真摯な瞳は怯むことなく、私たちを見つめている。

「まさかこっちが逆に問い詰められるコトになるたぁ思わなかったぜ」
「潔白なら問題なくお答えできるはずですよね」
「じゃ、順番に答えていこうか。
 原田君ら三人については、山崎君の方から説明してもらおうか」

 山崎が答えるのを聞く。
 山崎はそのときの怒りでも思い出しているのか、膝の上で握った拳をかすかに振るわせていた。

「アタシたちが来た時はもう、梅ちゃんを襲った人間の姿はなかったわ。
 その代わり、とっても都合のいい、まるで頃合でも見計らってたみたいに登場した人がいたっけ」
「薩摩藩の中村半次郎ですね」
「そう、あの人斬り半次郎よ!」

 何故、と思った。
 だけど、彼には彼の事情があるのだろう。
 落ち着いた気持ちでそれを聞く。

「梅さんが襲撃された直後に、都合よく薩摩の人間が現れて。
 すべて新選組の仕業だと叫ぶ。
 ホント、都合よすぎますよね」
「しかも、甲子ちゃんトコには新選組が梅ちゃんを狙ってるって手紙が来たのよね?」
「それも薩摩の人間から」

 交互に山崎と鈴花が話しているのを聞く。

「ええ、お名前は明かせませんが」
「どう考えても薩摩が怪しいと思うのですが?」
「ええ、まったくその通りです。
 ですが、大石くんはどうなりますか?
 私はわざわざ藤堂くんらを挑発した大石くんの真意がわからない」
「そこまでは、私には何とも。
 まったく別行動でしたし…」

 鈴花の戸惑いを近藤が接ぐ。
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