幕末恋風記[本編11-]
□十四章# 会話四
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遠くで葉桜を探す平隊士の呼び声に、慌てて原田が離れ、急いで道場を出て行った。
たぶん照れているのだろうけど、それについて葉桜はつっこんでいる程の余裕がない。
ガクガクと足元から現実が崩れていく気がする。
どうして、いつも思うようにいかないのだろう。
自分がいなくなったとき、悲しむ人がいないように行動しているはずなのに、どうして皆自分をかまうのだろう。
問いかけながらも、理由はわかっている。
自分がひとりではいられないということをわかってくれているからだということを。
「葉桜、人間ってなぁ一人じゃ生きられない弱い生き物なんだ」
父様の言葉が蘇ってくる。
「おまえも強がってないで大切なヤツをちゃんと見つけろ」
遠い遠い記憶の中でも、強く父様は薦めてくれてる。
だけど、父様以上に大切な人はいない。
父様がもういないから、次に大切なのは父様が守ろうとした世界そのもの。
そこに生きているすべての人たちが大切で、とても愛おしい。
だからこそ、一番大切な人、は作ってはいけないのだ。
その人を優先してしまって、世界を守れなくなってしまうから。
守るべき世界が壊れないように、そのために自分はいるから。
「……仲間でいさせてよ、もぅ……」
零れた言葉は震えていて、私はそれを聞いている人がいるなんて、まったく気がつかなかった。
14.4.1# 〆
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