幕末恋風記[番外]
□髪結い
2ページ/3ページ
「あれだけ気をつけなさいっていったのに、アンタねぇ!」
「気をつけてどうにかなるぐらいなら、斬られないって。
それより、苦しい」
「あん、聞いてたよりは短いけど、これならすぐに戻りそうね」
「別に私は短くても……」
「戻してよね?」
「…………はい」
小さい頃からあまり身なりを気にしない気性の葉桜だったが、その後は流石にほんの少しだけ気にするのようになったという。
ただし、それは切れたらこっそりと鈴花に揃えてもらうという方向で。
「どうしてそうなんですか、葉桜さんは」
「んー、だって髪切られたぐらいで死ぬワケじゃないじゃん?」
「そーですけどぉ」
もったいないですよ、と髪を梳られる心地よさに目を閉じる。
なんて、平和であったかい時間だろう。
「私はこれでいいんだって」
「葉桜さん……」
髪を伸ばしていたところで願いが叶うワケじゃない。
願いはいつだって自分で叶えるモノで、奇跡もいつだって自分が起こすものだから。
髪を切ったからといって願いが潰えるワケじゃない。
そんなものはただの言い訳に過ぎないのだから。
「何もないんだよ」
「え?」
「大切なのは姿形じゃなく、自分の誠の心だから。
髪の長さに左右されるようなモノじゃないから」
大切なのは、願いを確かに叶えようと努力する自分自身だから。
(END)