読み切り

□永倉「綺麗な着物」
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 綺麗な着物をもらっても、今の自分に着る機会なんてないのに。

「俺がオメーにやりたかったんだよ。
 いいからもらっとけ」
「はぁ」

 桜柄のそれを風呂敷に包み直し、それからしばらく忘れていた。
 山崎さんに見つけられ、たまには、と仕事も兼ねて。

「その格好で町で情報収集をしてきて」と着替えさせられ、送り出された。
 懐剣だけで少し心許ないけれど、永倉さんのくれた着物というだけでどこか安心できた。

「あ、永倉さん?」

 声をかけると吃驚した顔の後で、すっごく嬉しそうにしてくれて。

「やっぱ俺の見立てに間違いは無かったな」
「ありがとうございます」
「これから帰るんだろ?
 送ってやるよ」

 二人で屯所までの道を歩きながら、永倉さんはいつもよりもゆっくり歩いて、手を引いてくれて。

「ありがとうございます」
「あん?」

 もう一度礼を言ったら、怪訝そうな顔をされた。

「なんだよ?」
「ふふ、何でもありません。
 ただ言いたかっただけです」

 いつもそれとなく守ってくれている。
 小さな事だけれど、気が付いたらいいたくなっただけです。

「変なヤツ」

 不思議そうにしていたけれど、やっぱり永倉さんは嬉しそうだった。
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