読み切り

□斎藤「蜩」
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 カナカナカナと、ヒグラシが鳴く声。

「あの、斎藤さん?」

 取られた手に固まったまま声をかける。
 夕暮れとはいえ、町外れとはいえ、この辺りもそれなりに人通りがある。

 私の声に、彼は微動だにしない。

「甘い、な」
「はい?」

 好いた人に抱き寄せられ、肩に顔を埋められ、動揺しない女がいるわけがない。

「さ、斎藤さん!」

 でもここは往来で、たぶんもうしばらくすれば他の新選組隊士の方々も通るわけで。

「俺の部屋に来るか?」
「はい?」

 なんで!?

「誘っているのだろう?」

 その甘い匂いが、と。

「誘ってません!!」

 真っ赤な顔をして叫ぶ私を、彼は嬉しそうに笑った。
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