咒いの血

□咒いの血
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 京の夜、島原や祇園といった場所は別として、町中はひっそりと静まり返り、不気味なほどに怪しくも美しい月に支配される。
 古くは源義経が武蔵坊弁慶と出会ったとされる橋の欄干に体を預け、私はひっそりと月を見上げていた。

 雲が月を横切り、朧に空が曇る頃、獣の咆哮が近づいてくる。

 私が目を向けると、そこにいたのは痩せこけた白髪の男で、その目は赤く輝き正気は見えない。
 そんなものが二人もいる。

 咆哮を上げて飛びかかってくる一人から逃げることをせずに、私は素直に自分の体を明け渡した。

 肩にずぶりと獣の歯が食い込むのを感じながら、私は相手の頭をそのまま押さえつける。
 男はそのまま私の血を吸い、何かに気が付き暴れ始めるのを私は力づくで押さえつける。

「いい子だから、もう終わりにしな」

 男は徐々に力を無くし、ずるりと私の腕から崩れ落ちた。
 瞳も髪も黒く戻り、ただ驚愕のままの死に顔を晒している。
 まるで、毒でも飲まされたように。

 もう一人の獣は、本能で危険を察知でもしたのか、後退り、逃げようとした。
 だが、彼の前を白刃の光が横切り、それはもう動かなくなった。

 私は噛み付かれた肩を抑えながら、目の前に立つ不機嫌な男どもに笑ってやる。

「やあ、新選組の皆さん、今夜は良い月夜だ。
 一緒に酒でもどうだい?」

 努めて陽気に私が言うと、先頭にいた長髪の男が眉をひそめる。

「あんた、なにをした…?」
「何をって、されたのは私の方だと思うんだけ…ど?」

 ぐらりと体が傾く。
 ああ、ちょっと、いやかなり痛い。
 覚悟はしていたけど、噛まれたら痛いだろうなと思ったけど。

 どさりと自分の体が倒れるのをどこか人事みたいに見ていた。
 このまま、誰か私を殺してくれたらいいのに。

「おい!?」
「ははは、まー詳しいことはこんどーさんにでも聞いてくれると手間が省ける。
 とりあえず、このままほっといてくれ。
 ちょっと寝れば…だいじょー…ぶ…」

 騒々しい周囲の音はあっという間に聞こえなくなった。



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