幕末恋風記[番外]
□相談者
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「で、それはいつの話だよ」
眉間に土方みたいに皺の数を増やして、不機嫌そうに聞いてくる永倉に努めて明るく笑いかける。
「あはは、そんなのもうずっとだ」
さらに皺を増やしているであろう永倉に背を向け、両手を組んで前に突き出して、身体を伸ばす。
先ほどまで昼寝していたので、少し身体が怠い。
本当は一番土方の部屋が寝やすいのだが、流石に毎日行くと怒られるので、けっこう葉桜は永倉の部屋で昼寝することが多い。
ここは他の誰とも違う感じの部屋だ。
どちらかといえば、父様の部屋はこんな感じだ。
これと書物の匂いがあれば完璧だ。
「ずっとって、ずっとか?」
「ああ、新選組に入った夜にまず夜這いに来たヤツがいてだな」
後ろで盛大に驚いた音がするけれど、とりあえず流しておく。
「まあそんなもんは返り討ちにできるからいいんだけどよ、その足で鈴花ちゃんを襲われたら困るから、襲われるってコトがどういうことか身をもってわからせてやってだな」
何をしたんだとか小さく呟いているようだが、ちょっと急所を蹴りつけてやっただけだ。
「そしたら、泣き言言うからそのまんましゃべらせといたら、なんだか礼言われて帰られて。
次の夜から夜這いを口実に来るのが増えちまったってワケ」
あははと笑って話していたら、いきなり後ろに引き倒された。
目の前の永倉の苦しそうな顔を見上げる。
てっきり土方化しているかと思ったんだけど、そうではないようだ。
「……オメーはよォ」
心配している男の頬を撫でながら、クスリと笑う。
「永倉が気にかけることじゃないぞ?
話すだけで楽になれるんなら、いくらだって聞いてやれる。
私にはそれしかしてやれない」
「だからって、付き合う義理なんか」
「あるよ。
ここに置いてもらってる」
「……んなことねェよ」
「こうして心配してくれる仲間もいるしな」
抱きしめる腕に力が篭もって。
葉桜は心から幸せに笑った。
「だから、私は幸せだよ」
「そうかよ」
「うん」
(END)