幕末恋風記[追加分]

□元治元年水無月 04章 - 04.2.2#宛名のない手紙
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(土方視点)



 目の前でくすぐったそうに笑っている葉桜は、こうして知ってしまえばただの女と見えないこともない。が、やはり人とは違う何かを抱えているらしいということだけは、会話の断片でわかった。

 山崎に探らせているが、葉桜の出自はようとして知れない。害あるものでないのは確かだし、総司や新八と並ぶほどの腕前は新選組にとって非常に頼りとなるものだ。

 だが、時折垣間見せる教養やその洗練された作法はただの田舎者に身につけられるものじゃない。新八の話じゃ、舞も身につけているというし、今の様子じゃ和歌も教養の一つとしているらしい。そんなものは普通、庶民が身につけるようなものではない。

 山崎の提案で女装させたときはどこかの公家者かと思ったが、そうでもなさそうだ。かといって、どこかの藩の姫君がおいそれと出歩けるわけもないだろうし、これだけの剣客としての技術を身につける必要もないだろう。

「わっ!?」
 俺が引き寄せれば簡単に胸に落ちてくるというのに、そのまま完全に体を預けるということはしない。適度な距離を置いて、俺たちと向き合っているのはよくわかった。普通の女ならば慌てるようなことでも葉桜はどっしりと構えて、笑い飛ばす。それはそれだけ俺たちのような者との付き合いが深く、慣れているとも考えられる。

「そういえば、土方さんは私に何か用事ですか? 仕事?」
 見慣れない手紙の宛名を探っていたというわけにはいかないが、葉桜には気が付かれている気がする。にっこりと腕の中から俺の顔を上目遣いに覗いて、葉桜が笑った。

 これが全部わかっていてやっているようなら警戒もするんだが、葉桜のその目は俺はよく知っている。総司とおんなじで、子供と同じだ。

「別に、なんでもねぇよ」
「へー」
 にやにやと笑っている葉桜の頭をぐしゃぐしゃと撫で回すと、きゃらきゃらと子供のようにはしゃいでいた。





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