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一歩を踏み出す勇気
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俺には大好きな人がいます。



「音也。あそこ、先輩いるぜ?」

「え? …ほ、ほんとだ…!」



1つ年上の先輩、倉井兎汰先輩。


入学式のとき、俺は先輩に一目惚れした。

それから俺はずーっと、片想いを続けてる。



「告白しねーの?」

「う、ん… したいとは思ってる」

「もう卒業までそんなにねーぞ?」

「…卒業、かぁ」



…そう。先輩は今年で卒業してしまう。

そりゃ、卒業までには告白はしたいけど…


したいん、だけど…



「…俺、先輩と話したことないんだよね」

「はぁ? それが何だよ?」

「それなのに告白とか無理! 絶対無理!」

「お前なぁ… 男ならうじうじすんな!」



翔はいいよ、ダンスが恋人だもんね!

…って言ったら、頭を叩かれた。痛い。


つーか、俺、告白なんてしたことないし…

しかも相手が先輩で、話したこともない。

ハードル高すぎるって…


すると、翔は吹っ切れたようにこう言った。



「ったく、しょーがねぇな」

「え?」

「俺がお前のためにひと肌脱いでやる!」

「え、ちょ、翔…?」



そう言って、翔は大きく息を吸った。


ま、まさか…!



「そこの倉井兎汰さーん!」

『っは、はい!?』

「ちょとちょちょっと翔! 何やって…!」

「初めまして。俺、来栖翔って言います」

『え、と…初めまして…』



困ってる先輩も可愛…ってそうじゃなくて!

いくらなんでもやりすぎだよ、翔…!


どうしよう嫌な予感しかしないって…!



「こいつは一十木音也。俺の友達っス」

『は、はぁ…』

「こいつ何か話あるみたいなんで。じゃ!」

「え!? な、何言ってんの!!?」



もう一度じゃ!と言って、本当に翔は行ってしまった。


気まずい沈黙、2人きりの空間。


…しょ、翔のばかああああああああああ!



『あ、あの……一十木、くん?』

「ははははは、はいっ! 何でしょう!」

『えっと…お話って…?』



だよね! やっぱそこ聞かれるよね!

どうしよう! 先輩の顔見れない! 可愛い!

で、でも、このまま黙ってたら…



……俺は覚悟を決めた。



「せ、先輩っ!」

『っな、何ですか…?』

「俺……俺っ…!」



俺は先輩の肩を掴み、気持ちをぶつけた。



「俺っ…先輩のことが大好きです!!」

『っ!?』



そう言うと、先輩は顔を真っ赤にして俯いてしまった。


…ふと周りを見ると、ざわざわしていた。



「い、今のって告白だよね…!?」

「あの男の子だいたーん!」

「いいぞ一十木ーっ! よく言った!」

「もう付き合っちまえー!」



そこには知らない人もいれば、同級生のやつもいた。


…そ、そうだ、ここ廊下…!

そう意識した途端、顔に熱が一気に集まったのが分かった。



「ああああああの、先輩、そのっ…!」

『〜っ! へ、返事は…』

「え?」

『へ、返事は、また今度、します…!』

「え……あ、ちょ、先輩!?」



そのまま先輩は走り去ってしまった。


ま、また今度って…また今度があるの!?



「や…やったあ…!」

「…まだOKもらったわけじゃねーだろ?」

「あっ、翔! さっきはよくも…!」

「はぁ? 告白できたの、俺のおかげだろ?」

「うっ…」



それはそうだけど…や、やり方が…うん。

でも、確かに、まぁ、翔のおかげだし…



「ほら。俺に言うことちげーだろ?」

「…ありがと、翔」

「どーいたしましてっ!」



そう言って、翔は満足そうに笑った。



――こうして、俺の片想い生活は終わった









(せせせ先輩! お、お昼一緒に食べよ!?)

(い、いいよ! 一十…おおおおお音也くん!)

(…ぎこちねーなぁ……)



 20121103
 

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