□かなわない
1ページ/1ページ





「ギロロって、お兄さんみたいだよね」

「なッ、何ぃッ!?」




それはよく晴れた日曜の午後。俺はいつものように武器磨きに専念していた。


「うむ、我ながら上出来な仕上がりだな。……ん?」


ふとリビングへ目を向けると、何やら冬樹が苦戦していた。どうやら、棚の上にある荷物を取ろうとしているらしい。
足元はフラフラと揺れ、今にも踏み台から落ちてしまいそうだ。

危なっかしくて見ていられない。

そこで俺は擬人化システムを使い、その荷物を取ってやったのだが。


「本当は前々から思ってたんだけどね。ギロロってお兄さんみたいだなぁって」

「なッ、なッ」

「じゃ、ありがとうギロロ」


小走りに去っていく冬樹の後ろ姿を、俺は硬直したまま見送った。

頬が熱い。


『ギロロってお兄さんみたい』


冬樹にしたら些細な一言だっただろう。
しかし、俺にしたらかなり強烈な言葉なわけで……。



「アイツにはかなわないな」



あんな笑顔で言われたら、こっちは何も言えなくなるじゃないか。
まったく……。


「お兄さん……か」


そのくすぐったい響きは、それから数日間も俺の胸のなかで反響することになった。




*END*

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ