☆
□かなわない
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「ギロロって、お兄さんみたいだよね」
「なッ、何ぃッ!?」
それはよく晴れた日曜の午後。俺はいつものように武器磨きに専念していた。
「うむ、我ながら上出来な仕上がりだな。……ん?」
ふとリビングへ目を向けると、何やら冬樹が苦戦していた。どうやら、棚の上にある荷物を取ろうとしているらしい。
足元はフラフラと揺れ、今にも踏み台から落ちてしまいそうだ。
危なっかしくて見ていられない。
そこで俺は擬人化システムを使い、その荷物を取ってやったのだが。
「本当は前々から思ってたんだけどね。ギロロってお兄さんみたいだなぁって」
「なッ、なッ」
「じゃ、ありがとうギロロ」
小走りに去っていく冬樹の後ろ姿を、俺は硬直したまま見送った。
頬が熱い。
『ギロロってお兄さんみたい』
冬樹にしたら些細な一言だっただろう。
しかし、俺にしたらかなり強烈な言葉なわけで……。
「アイツにはかなわないな」
あんな笑顔で言われたら、こっちは何も言えなくなるじゃないか。
まったく……。
「お兄さん……か」
そのくすぐったい響きは、それから数日間も俺の胸のなかで反響することになった。
*END*