(マ)シリーズ
□有利覚醒秘話
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俺の弟もいつの間にか大人へと変わっていく。
なんでも異世界じゃ一国を担っているというじゃないか。しかも美人な婚約者まで紹介された!
(↑これ重要!)
「ゆーちゃんの為にも俺が背中を押してあげないとな」
§有利覚醒秘話§
澄み渡る青い空。
「んー、気持ちいいわねー」
洗濯物を干しながら渋谷美子は微笑みを零していた。その傍らでドタドタと階段を駈け降りてくる足音が……。
「おふくろ!何なんだよコレは!?」
「ママでしょ?ゆーちゃん」
足音の主は彼女の息子・渋谷有利。
寝起きのままの姿でワナワナと肩を震わせ、物凄い剣幕である物を美子に突き付けている。
「おふくろだろ?こんなのおれの枕元に置いたの?」
「あらー、必要でしょ?ヴォルちゃんとそういう関係にだってなるんだものぉ」
「だからってこーゆー本を息子の部屋に置いとくかってのっ!?」
彼が今手にしている物とゆーのは一般的にいうBL雑誌!
しかも……しかもである。
『金髪特集』や『ツンデレ特集』など有利の婚約者に当てハマりそうな特集モノばかりをチョイスしているのだ。
「あら、いけない!ママ、お友達とお出掛けする時間だわ。だから帰ってきてからまたお話しましょ?ねッ、ゆーちゃん?」
「そんな、おふくろ!」
慌ただしく支度をする美子を止められるはずもなく、有利は茫然と美子を玄関先から見送るだけしか出来ずに立ち尽くしていた。
「おみやげ楽しみにしててねー」
息子にはお構いなしの満面の笑みで手を振って美子は出掛けて行くのであった。
「なんてタイミングのいい……」
「ゆーちゃん何してるんだ?そんな所で」
「あーっ、勝利!どこ行ってた……って、また秋葉かよ!?」
「まーな。……それより、玄関で話すのもあれだから中に行こうか」
そう言う勝利の頬がほんのり赤くなるのを有利は見逃さなかった。
(まさか勝利まで?)
「マジかよぉ〜?」
予想的中!
勝利が差し出した紙袋にはそれらしい物が……。
「これは同人誌だ。今一番熱い同人作家の本でサイン入り」
「は、はぁ」
「それからこれは同人ソフトで」
「わ、分かった!分かったからもう良いよ!表紙とか見たら分かるから」
金髪少年の表紙ばかりが明らかに揃えられている。
「おふくろも勝利も何で……」
「ゆーちゃんを思ってのことだ」
「それは分かるけどさぁ」
「ヴォルちゃんと上手くいってほしい……それだけだよ」
(……あんなにブラコンだった勝利が)
「それに、ゆーちゃんは男同士の事情に詳しくないだろ?」
「そりゃそうだろ!って、勝利は詳しいのかよ!?」
「多少はな?」
勝利は余裕の笑みを浮かべると立ち上がり、またどこかへ出掛けてしまった。
取り残された有利は暫らくの間どうしたものかと問題の品々を前に考え、そして意を決意してそれらを手に抱えた。
「二人の行為を無駄にするのも悪いからな……見るだけなら」
そう呟くと有利はそそくさと自室に駆け込んでいく。
青い空がどこまでも続く日曜、彼の知識は腐女子本により莫大に覚醒されたという。
「スゲェーなコレ……」
*END*