□【片恋フラグメント】シリーズ
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【雨宿り、君と】



しとしとと。
細かな雨が止め処なく空から降り続けている。

分厚く広がる鼠色の雨雲が、今は遠いかの人と自分を繋ぐただ一つの大空を遮ることが滅入る気分に拍車をかける。



「よお、」
「……フラウ、」



最近聞き慣れた声と煙草の匂い(アヤナミ様がたまに吸うものとは匂いが違う)に振り返ればそこにはひどく背が高い(アヤナミ様とどちらが高いだろう)柄の悪い司教、フラウがいた。

彼もまた濡れ鼠で、自分と同じく突然の大雨に慌ててここへ雨宿りに入ったのだろう。

不意に大きな彼の手が雨に濡れた自分の髪に伸びた。



(違う、)



ありえない幻想に甘えた自分が恥ずかしくて思わず俯く。


「んだよ、いつもみたいにキイキイ喚くかと思ったら妙にしおらしくて気持ちわりぃな」
「うるさい!」



いつもの調子で自分の髪をくしゃくしゃにして頭を撫でる彼がいつも以上に憎らしい。
これ以上虚しい幻想に囚われたくなくて思わず雨の中に飛び出した。




大きな手袋をはめた手が髪に手を伸ばす。
その手は髪をすいて頬に触れ、滑るように頬を撫で、頤を掴む。
そして親指に軽く力が入ると、自然と視線を合わされる。



今までの『いつも』がここでは違う。




此処にはいない。
貴方がいない。




願わくば。


この雨が貴方の元にも降っていて欲しい。




*****



「ったく、気色悪いどころか面白くねーっつーの」



辛うじて湿気ていない煙草を取り出し口に咥え火を点す。
酷く残念なことにあの生意気で綺麗で強かな猫は既に誰かのお手つきらしい。



「折角互いに雨でずぶ濡れなら雨宿りついでに仲間でずぶ濡れと洒落込みたいとこだったんだが」



ふう、と薄暗い屋内に紫煙を吐き出して今にも泣きそうだった(既に泣いていたかも知れない)子猫が去った外を見やる。



「最中に他の男の名前呼ばれても興ざめだしな。まあ今のアイツは此処から出られないみたいだし。いいさ、ゆっくり躾け直してやるさ」





――身も心もオレ好みに――







天使は主の夢を見て
死神は天使を恋い
共に煩う
不埒な午後の雨宿り
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