文
□時間に関する5つのお題
2ページ/5ページ
【6:05】
……しんとした静寂と、凛とした寒さが広がる早朝。
欠伸をかみ殺している夜勤明けの兵を横目に、まだ真新しい軍服に身を包んだ少年―テイト・クラインはホーブルグ要塞の奥にある参謀部の執務室に向かっていた。
(今日こそは……!)
淡い期待に胸を躍らせながらも、いつものように一呼吸おいて断りを入れるのを忘れない。
「失礼します。テイト・クライン入室します」
よく磨かれたノブを回し、意気揚々と執務室に足を踏み入れたテイトだったが、次の瞬間にはその表情に明らかな落胆の色が差すことになった。
「あ、アヤナミ様……オハヨウゴザイマス」
「ああ、おはよう」
無人だと思われた執務室には既に先客がいた。
かっちりと、一部の隙も無く軍服を纏い、白銀の怜悧な美貌を備えた軍人。
テイトの上司であり、この執務室の主、バルスブルグ帝国軍参謀長官―アヤナミ、その人だった。
いつもの仏頂面でコーヒーをすすりながら、既に何枚かの書類に目を通しているアヤナミの前をすごすごと横切りテイトは小さなため息をついて自分のデスクに腰掛けた。