文
□【片恋フラグメント】シリーズ
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【人に恋をするということ】
今日も今日とてハクレンは試験勉強のために図書館に向かっていた。
今日もまた、ハクレンにとって代わり映えのしない1日が展開する、そのはずだった。
「ハクレン君、」
「バスティン大司教補佐」
「今日から君と同室になる司教試験の受験生がいるんだ」
その言葉を聞いたとき、正直ハクレンは眉をひそめそうになった。
折角一人部屋で勉強に専念できると思ったのに、とんだ厄介話が舞い込んだものだと。
「ミカゲ君」
名前を呼ばれると共にバスティンの背後から、頬に十字の傷のある快活そうな少年が歩み出て、すっと右手を差し出してきた。その手は少年の手というより男の手と形容した方が相応しい、大きく無骨な手だった。
「はじめまして、よろしく。俺はミカゲ=ウィード。第2区から来たんだ。お前は?」
「……オレはハクレン=オーク」
馴れ馴れしい奴。
それがハクレンのミカゲに対する第一印象だった。
とにかく勉強の邪魔にならなければいい。
ただ、それだけを願って相手の手を握り返す。
「……?」
無骨な手に握りこまれた自分の手から伝わる、熱。
その穏やかな熱に何処か懐かしさを感じ、ハクレンは再度ミカゲの顔を凝視した。
「あの、オレの顔なんかついてる……?」
「いや……、なんでもない。よろしく、ミカゲ。くれぐれもオレの足を引っ張ってくれるなよ?」
「な!?」
「あはは、仲良くするようにね」
いくら考えたとて妙な既視感の正体は掴めない。
早々にその判断を下したハクレンはもう用はないといった風に身を翻して颯爽と図書館へと向かっていった。
「おい、待てってば!」
「うるさい。ついてくるな」
「待てってば!!」
そんなハクレンの後ろにミカゲは走ってついていく。
(まるっきり忘れてやがる、コイツ……!!)
ミカゲがそう心の中で叫んでいたのをハクレンは勿論知らない。
そして。
(キラキラしてて綺麗なところに磨きはかかってるけど、マジで中身変わってねー)
そんなことを考えつつ、目元を僅かに赤く染めていることも、勿論、気づくはずもなかった。
今回出てきたミカゲのファーストネームは偽名です。蛇足設定ですが本名はミカゲ=ウィリアム(超捏造)。