オリジナル

□二作目一話
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今日は土曜日。
半日だけの授業も終わり、自分のクラスである1-3の教室から隣の1-2の教室へ顔を出す。
くるりと教室を見回し、お目当ての人物を探し出し口を開けた。


「ソーヤ!!」


教室の外から大声を掛けたのは、サワやかナリで爽也と言う名前の、オレの15年来の幼馴染。

親の期待を背負った、トムソーヤみたいに活発な男に育つようにって思いを込められて名付けられたソーヤだが。
実際は成長期だと見越しても、将来いくつになるか高が知れている150cm強の身長。
ぱっとしない地味目な顔。幼さの残る黒い髪。
勉強もスポーツもぱっとはしない。
可もなく不可もなく…中庸って事?

んー、おじさん、おばさん、あなた方の期待を背負った息子さんはトムソーヤにはなれませんでした。



ってコレは幼馴染である親友への友情ゆえの愛のムチ的評価だ。
でもたぶん…周囲の評価はもっと厳しいものだろう。
地味目で小さな身長も相まって…クラスに少なくとも一人はいるだろう?
存在感が薄いタイプの奴。
えっと誰だっけ?みたいな。
残念ながらそう言う印象を受けるのがソーヤだ。


中身は地味でも暗くもないんだけどさ。

きっとオレが声を掛けなければ、クラスで未だに認識されていなかったかもしれない。




そんな愛のムチを打つオレ、和臣はと言えば。
男女ともに交友関係は広い。
楽しい事好きだし、その辺の社交性の高さは元かららしい。
現在は平均より多少高い程度の身長だが、両親が長身だしまだ伸びるっしょ、と楽観視している。

可愛カッコイイと評価される顔は、所謂アイドル顔。
それを良いとは思った事はないが、不自由はしない。
勉強はそこそこ、スポーツは基本的に何でも好き。


入学して一ヶ月も経っていないが…
自分で言うのもアレですが。
オレは結構もてる方だよ。


今現在、学年でもかるーく注目を集め始めてしまっているオレが。
なーんで地味〜なソーヤを迎えに来ているのかと。
かなり…悪目立ちしてしまっているらしい。

今も、呼ばれて振り向いたソーヤは心底嫌そうな顔をしていた。
若干人見知りの癖があるソーヤはオレのせいで目立つのが嫌みたいだ。
その嫌そーな顔が見たいがために、迎えに来ているってそろそろ気付いた方がいい。

大っ嫌いな蛾を見る時みたいな顔で振り返るのだ。
ガキの頃にでっかい蛾に襲われてから嫌いになった。もちろんその現場にオレはいて、泣いてるソーヤを見てゲラゲラ笑っていた訳だが。


まだ真新しい鞄を机の横のフックから攫うと、ソーヤは一目散に扉の外で待つオレの元までやって来た。


「来んなって言ってるだろ!!せめて下駄箱で待ってろよ!!」


きゃんきゃん騒ぐ子犬みたいだよなぁ、コイツ。
実際は興味津々でオレらを眺めているクラスメイト達に会話を聞かれたくないのか。
ひそひそ声ではあるのだが。

「待ちぼうけするより、迎えに来た方がいいじゃーん」

こんなぶっさいくな怒り顔見れるんだし。

「だから!!文明の利器を使え!!メールしろって言ってるだろ!!」
「隣の教室なのにメンドーじゃん」
「おれのクラスでの立ち位置を考えろ!!バカ臣!!」


と、毎度のように繰り返される押し問答をしながら歩いていると、すぐに校舎が背になる。
その頃になるとようやっと、小さくため息をつき、ソーヤの怒声は止む。


「いちいちお前との関係を説明すんの、メンドーなんだよ」


ソーヤが本気で怒っていない事も判っているし、ソーヤはソーヤでオレが迎えに行く本当の意味を判っている。
だから本気で怒らない。

「同中出身だって言えば良いじゃん?」


実際そうなんだし。それが牽制になるのだから。
なにせ…


見た目で行くと、ソーヤはイジメに遭いやすいタイプだ。
けれどオレと友達だと判れば牽制にもなる。


ちなみにソーヤに手を出そうものなら小学校でも中学校でも、肉体的及び精神的に制裁を加えて来たのは言うまでもない。


「そうすっと紹介しろだのなんだの言われるだろ!!それが実害なんだよ」

確かに。
すでにソーヤ経由で女の子が何人かやって来た。
いちいち紹介しなければならないソーヤとしては面倒極まりないのだろう。

「まぁ今の所、カズには彼女がいるから、その波も引いたけど」
「ああ、うん。別れちゃった」

ソーヤがオレをこの世の者とは思えないような顔で見上げる。
愛嬌ある顔が更に増長されて見えるのは、親友の欲目だろうか。

「おま…入学してまだ一ヶ月も経ってないだろ!?」

その間に付き合って別れたのだから仕方ない。
だって。
合わなかったんだもんさ。

「今フリーかよ…またおれが迷惑こうむるんだぜー」

うんざりした顔も、怒った顔も、くるくる変わる表情が愛嬌あって。
面白いなーって思うから、そういう顔をわざとさせているんだけど。
やっぱりコイツは気付いていない。


「まーまーまー、なぁアイスが割引だって」

宥めるためにも、話を逸らすためにも、駅前にあるアイスクリームショップを指差す。
ダブルが割引!とでかでかとポスターが貼ってある。

今日は春らしく天気もいいし、絶好のアイス日和…と言う事にしておこう。

「誘ったって事はお前の奢りだよな?」
「まっさかー」
「だろうねー」


半眼になって呆れているソーヤの腕をぐいぐい引いてアイスクリームショップに入っていく。
色とりどりのアイスクリームがガラスケースの中に納まっている。
色とりどりって時点で、着色料とかどうなんだろうな?


せっかく割引されているんだから。
ダブルのアイスクリームを頼む。

オレはマンゴーとキャラメルのを注文。
隣でソーヤがブルーベリーとイチゴミルク。なんて、どっちも同じような味じゃん!ってものを注文していた。
ショップのお姉さんから手渡されたアイスが入ったカップは、ずしりとかなりの重さ。
これ、食べてる間に溶けるんじゃね?


端っこの窓際の席に荷物を置いて、後から来るソーヤを待つ。
ガラス張りの店内、窓際にはまだ高い太陽の日差しが注がれている。
のどか〜


そんなのどかな土曜日の午後を幼馴染と過ごしている


「先に食ってて良かったのに」

気付いたらソーヤはガタガタと音を鳴らせながら、椅子を引いている所だった。
淡い紫色とピンク色のアイスクリームをテーブルに乗せながら。
待っているつもりはなかったのだが、気付けば待っている形となった。

「あーうん、恩を感じてもらおうと思って」
「こんな事で感じねーよ!」

っんにゃろ!待っていた人に向かって何て言い様!なんてのは、大人な俺は口にしたりしない。
昔から後ろをちょこちょこついてくるソーヤを待つのが、何故か苦にならなかった。


席に座ったソーヤはスプーンに掬ってアイスを食べ始めた。
倣ってオレも食べ始める。
やっぱ100円アイスとは違うなーなんて思いながら。
あれはあれで、チープさがいいんだけど。


「そっちも美味そーだよな。くれ」
「それが人にものを頼む態度か」

そう言いながらも、ソーヤはブルーベリーとイチゴミルクのアイスが入ったカップをオレの方へ差し出す。
人の食べてるものって美味しそうに見えるのって何でだろうね?
まずはイチゴミルクを掬って口へ。


「ってお前はくれねーのかよ!!」
待ってましたのツッコミ。
絶妙なタイミングは長年の感覚。

「えー?欲しい?」
「食っといての上から目線!!」
「仕方ねーなーやるよ」


マンゴーとキャラメルのアイスが入ったカップを差し出す。
ソーヤはさ、美味そうに食うんだ。
童顔が更に幼く見えて。
中学生所か小学生にしか見えない。

そうだよな?嬉しいよな?お前はマンゴーもキャラメルも大好きだもんな?


「いいよ、もっと食って」

一口づつ減ったお互いのアイスクリーム。
許可にソーヤはへらりと顔を崩す。
安い奴だなー。
お菓子あげるからって、変なおっさんについて行きそう。
だからオレが見張ってやってやらないと。

「サンキュ」

これで機嫌が直れば安いもんだろ?


「どーいたしまして」


端が少し溶けたアイスクリームが入ったカップが返ってくる。


「腹こわすなよ」
「こわさねーよ」

どちらともなく笑いがこみ上げる、この距離感。

周囲にどう見られても、オレ達のこの距離は変わらないんだ。




土曜日の午後、先週は彼女とデートしてたけど。
ソーヤといる方が楽しいって思うのは、おかしいのだろうか?










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