オリジナル

□三作目二話
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自席に着くと、前の席に座る友人の春哉が心配そうに沈んだ様子の虎太郎を迎えた。



虎太郎と龍之介の関係が変化したのは高校に入ってから。
クラスメイトたちは皆それぞれ初対面の者だった。


傍から見れば入学早々に目を付けられた虎太郎は厄介者以外の何者でもない。
ただでさえ悪名名高い龍之介と同じクラスになってしまったと言うだけで、戦々恐々としていた者達だ。


けれど龍之介は虎太郎以外には手出しをしなかった。
そもそも圧倒的な強さを誇り、売られたケンカは買ってはいるが、自分から売ったりしない。

龍之介の元々の性格は気さくで明るく勉強も出来る、正反対と思われる優等生タイプなのだ。
それを悟ったクラスメイト達も、自分には被害が及ばず、尚且つ龍之介自身は人好きのする性格とくれば。

双方への差別はなくなり、虎太郎にも龍之介にもそれぞれ友達と呼べる人ができた。


ただ、事が二人の関係に及ぶと。
己の身の可愛さからか、皆口を閉ざし見て見ぬ振りをするようになった。


虎太郎もそれで良かった。

なまじイジメを指摘し、虎太郎を庇われても虎太郎自身が困るのだ。
事なかれ主義でいてくれていい。



「大丈夫か?」


心配そうな目が、虎太郎を覗く。
虎太郎は沈んでしまった気分を無理矢理浮上させた。


「大丈夫〜大丈夫〜!!
今だって殴られた訳じゃないんだし」


笑って返せば春哉は、ほっと安堵したような表情を見せるが、それでも心配げに曇っていた。




龍之介が虎太郎をパシリの対象にしている『振り』
あくまで『振り』であって、実際に暴力を振るわれた事はない。


それでも、先ほどのように机を蹴られて凄まれれば、本気で『怖い』と感じる。
判っていてさえ尚、演技かどうか疑いたくなる時がある。
虎太郎が本気で怯えれば、周囲から見た二人の関係は一層真実味を帯びるのだ。


そうすれば、虎太郎の事も、龍之介の事も、守れる。


虎太郎は春哉に笑顔を向けた。









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