オリジナル

□第五話
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部屋に通される。
ローテーブルの前に座り込んだ淳平君が向かいを顎で指した。
座れって事だよな。
俺は震えそうな足を叱咤して、向かいに立った。


「答えを聞かせてくれるんだろ?」


非難するような視線が下から向けられた。
それもそうだ。
考えさせて欲しい、とも何も言わず洋服を買いに行くのに付き合わせたのだから。
その非難は甘んじて受け止めなければ。
君のためだとしても、俺が君を傷つけたのも事実。


大きく息を吸って、口を開いた。
声が震えていた。


「俺は君に見合う人間に、なれた?」
「…は?」
「俺、は…君の隣に立てる人間に、なれた?」




変わりたかったんだ。
君の隣に少しでも長くいたいと思ってしまったから。
少しでも価値のある人間に、少しでも自信が持てたら。
君の隣に立てる気がしたんだ。
君が笑われずに済むようにしたかったんだ。


「…太一?」


淳平君も立ち上がり、ローテーブルを回り込んで俺の横に立つと、肩を引いて俺をそちらに向き直させた。
視線が合って。
淳平君が口を開く前に、俺が口を開いた。
俺が先に言わなくちゃならない。



「俺は、淳平君が、好きだ。…恋人になりたい」


ここで水門は決壊した。
必死に堪えてたけど、ぼろぼろと目から雫が伝ってしまう。


淳平君に出会ってから、毎日がとっても楽しくなった。充実したものになった。
ちょっと前の俺が今の俺を見たらきっとびっくりするだろう。
でもそれが、嫌な変化じゃないんだ。
これからも変わりたいって思うよ。
これからも君に見合うだけの人間になれるよう、努力するから。
どうか…


俺を見捨てたりしないで。
もう独りはヤだよ。
淳平君のそばにいたいよ。


「それ、ホント?」


後から後から水が溢れてきちゃって、淳平君がどんな表情をしているか判らない。
ただ声はとても優しくて。
俺は何度も頷いた。


「太一〜不安にさせんなよ…」


抱きしめられた。
腕の中にすっぽり納まって。
淳平君は気の抜けた声を出し、額を俺の肩に乗せた。
淳平君でも不安になる事、あるんだ。
俺もね、一週間ずっとずっと不安だった。怖かった。
いつも君の事を考えてたよ。


「俺は、君が好きだって、言ってくれた俺を、俺も…好きになり、たくて、自信、欲しくっ…
変わりたかったんだ!!」


後はもう淳平君のシャツに涙が付こうが鼻水が付こうが泣きじゃくった。
ホントに経験した事のない恐怖だった。
拒絶されたらどうしようって、怖くて怖くて眠れなかった。


人を好きになるって、もっとふわふわして甘いものだと思ってたし、そんな片思いしか経験してこなかった。


こんなに苦しいのに、こんなに辛くて悩みまくったのに、淳平君が抱きしめてくれただけで吹っ飛んじゃったんだ。
おかしいだろ?




淳平君は俺が泣き止むまでずっと頭を撫でていてくれた。
それがすごく温かくて嬉しかった。




「淳平君」
「…ん?」
「俺の恋人になる?」


淳平君は今までで一番サイコーカッコイイ笑顔を見せて


「なる」


って言ってキスをくれた。





俺は7千万分の1を探しに行った会場で、最高の6千万分の1に出会った。









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