オリジナル

□第三話
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天気も良くて散歩日和の今日は、特異なきっかけで知り合い、友達となってくれた淳平君とスカイツリー&お花見つあーを敢行する日であります。

先週の庭案内に続き、今日は地元案内?


勝手に目に入ってくる建造物だし、これのお陰で地元も活性化するかなー?地価が上がって家賃上がるなよー?
とまぁかなりそれについてはどうでも良い建物扱いだったけれど、建設中のスカイツリーは今しか見れないから見に行きたいと言った淳平君に感化され、散歩がてら地元案内と相成りました。


待ち合わせ時間よりだいぶ前に駅に着き、指定した改札口外でぼんやり待っている。
今日はぽかぽかして、待っていても全然寒くない。
そう、今日は全然寒くない。

少しはまともな格好を、と一週間悩んで決めたコーディネートも、そんな格好していったら熱中症で倒れるわー!!という気候。
朝になって頑張って頭を悩ませたけど、グレーのTシャツにグリーンベースチェックのシャツ羽織ってジーパンという、いかにもアキバにいそうだよね、ぷふーってコーディネートになってしまいましたとさ。

ケミカルウォッシュのジーパンじゃない事が救い?状態。
ああ残念。ホント俺って残念な奴だ。


けっこう観光客はいるらしく、本来住宅街だった最寄り駅は賑わいを見せていた。

行き交う人々を眺めながら、淳平君がやってくるのを待つ。
なーんかすげーなぁ。アクティブだよ、俺。



待ち合わせの5分前頃、待ち人は改札から出てきた。
一際高い身長は目立つ目立つ。
きらっきらの笑顔で、俺に手を振る。
情けなくて俺は熱くなった目頭を誤魔化すようにへらりと笑って、手を振り返した。


そして情けなさを煽るのは。
淳平君も同じような格好をしてきているのに、見た目がぜんっぜん違うと言う事だ。

白地に腕の部分が紺色のラグランロンTを腕まくりして。
出ている浅黒く引き締まった筋の出る腕。俺の白くてひょろっこい腕とは大違い。
それだけで体育会系の爽やかさが今日の気候にマッチしている。
俺はこの隣で絶対シャツを脱げなくなった。貧相なモンをさらせない。
そして彼もレッドベースチェックのシャツをですね、腰に巻いておりまして。んでジーパンスニーカー。

アイテム自体は同じなのに。どうしてこうも違うのだろうか。
同じ男としてへこむ。

毎回へこむんだけど、やっぱり憧れもする。
スゲーなーって思う。
男から見てもカッコイイって思える男は貴重だ。

俺は自分の情けなさに、ショルダーバッグの紐をぎゅっと握っていた。


スカイツリーの周りは写真を撮ったりしている観光客が結構いた。
休日だし、天気もいいし、絶好の行楽日和だもんな。
けれどだからと言って、そこはまだ建設途中の建築物である。
展望台に上れるでもないそれは、写真に収めて終了だった。
じじいになった時に、自慢してやろう。

淳平君がどうしても一緒に写真を撮りたいと言うものだから、渋々了承し他の観光客に頼んで写真を何枚か撮ってもらった。

判っているようで、淳平君はにっこり笑って女性観光客に頼みに行く。
ぽやんってなった女性達がカメラを受け取り、構えて待ってる俺の所に淳平君が戻ってきた所であーあって顔をされる。
悪かったなー!!相方がへなちょこで!!判ってるんだよ、俺だって!!

同じような格好してたって、同じにはなれないって判ってるんだよ、チクショウめ。




それからコンビニで弁当買って、隅田川まで行って川沿いの遊歩道をのーんびり歩く。
春のうららの隅田川〜って歌にあるくらいだし、こっちも花見客はいっぱい。
天気いいし、やっぱり考える事は、皆一緒だよね。


「淳平君!!見て見て!!」

俺は久しぶりのアウトドア?にはしゃいでいたのか、テンション上がってる。
声もいつもより弾んでる気がする。

川面を指差した。
散った桜が、ゆーらゆーら川面をゆっくり河口へと流れていっている。
こんな時は東京の川も風流になるな。

「こないだ言っただろ!?川を流れる桜も綺麗だよな!!」

ぱっと振り向いて見上げれば、にこーって今日の天気みたいに爽やかな笑顔浮かべた淳平君に頭を撫でられた。


…完全子供扱いだよな、これって。
それとも犬か?
散歩に連れ出して、桜にきゃんきゃんはしゃいでる犬なのか、俺は。
これでも俺、一応この春から社会人二年目よ?




しばらく桜を堪能して、遊歩道のベンチに腰を下ろす。
来がけに買った弁当を広げだした。
こんな風に外で弁当を他人と広げるなんて、中学の遠足以来だ。
こういうのって、何だかちょっと、くすぐったい。

季節限定なんて銘打ってあった、春の行楽弁当と言うのを二人で蓋を開ける。
鰆が入っていたり、菜の花とか山菜とか筍とか。
旬の食材が散りばめられた弁当で中々美味しそう。

二人でほお張りながらのほほーんと、晴れた青い空に、時折ピンクの花びらが散るのを眺める。
たまにはこう言うのも良いのかもしれないなー。

基本的に会社と家の往復で、たまに秋葉原まで出て、休日は部屋に篭りっきり。
そりゃ白くてひょろひょろのもやしにもなるわな。

だってほら、隣の人は同じ生物と思えないくらいに逞しい。


つつーっと視線を動かして、足元を見る。

「今日はスニーカーなんだね」

この間はなんかモード系?っぽくて、普段だったら俺が近寄りもしない人種だったけど、今日の格好はまだ親近感のある服装だ。

そう言えば初めてあった時もダウンにジーパンだった事を思い出した。

「今日は散歩だし…。この間は初めて会ってもらえるって、ちょっと気張りすぎた」

いつもはこんなんだよ。と言ってはははって笑ってた。

淳平君でも気張るとか、そんな事があるんだ。
って言うか、俺と会うのにどうして気張る必要があるんだ。
見るからにへなちょこな服しか着てこないの判るだろう。
差が出来るので、やめてください。

それはさ、つまりレパートリーがたくさんあるって話ですよね。
俺は仕事用のスーツとカジュアルな服しか持っとらんよ。

でもあんな感じの服も、大人っぽくて格好良かったよなー。とか思ってみたり。

いいなぁともそもそと口を動かしていたら、ベンチから投げ出していた足先に、淳平君の足先がこつりと当てられる。
今のってわざと、だよな?

隣を見上げると、悪戯っ子のようにまたこつりと当てられる。

「図らずもペアルックみたいになったし?」

コイツ馬鹿だー!!!!!
何でキモオタと同じような格好になってペアルックとか言っちゃってんの!?
普通嫌だろ。
チェックのシャツ=オタクみたいな構図が出来上がってんだぞ!?

確かに貴方が着こなせば、そんな定義も吹っ飛びますが。
あなただってもしかしたら、俺の印象に引っ張られて『オタクなのかしら…』って見られちゃうかもしれないんだぞ!?
俺がオタクである事はアイデンティティだし、誇りを持っているが、世間一般的に好奇や蔑みの対象である事は変えようのない現実。
オタクでもない淳平君が、周囲からそんな目で見られるのは耐えられない。


でもどうすれば…って考えて、チェックのシャツを着ないようにする。ってくらいしか思いつかなかった俺は馬鹿だ。









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