オリジナル
□第六話
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俺と淳平君が恋人同士(ぎゃー照れる死ねる)になってから更に数週間が過ぎた。
外で会う事もあるし、淳平君の家に遊びに行く事もある。
俺の恋人は良く出来た人で、俺の趣味を良く理解してくれていて、休日のどっちかは篭らせてくれた。
すまん。一日ぶっ通しアニメには流石につき合わせたら可哀相だし。
そう、俺の恋人はほんっとーに良く出来た人で、俺にはマジ信じらんないくらいもったいない人で。
でも俺の事好きって言ってくれて。俺も大好きで。
今なら死ね死ね団に襲撃されてもいいってくらいに幸せなのだけれどもさ。
俺は嫁の並ぶ部屋を見回した。
俺にとっては一人一人大事な大事なお嫁さん、な訳で。
淳平君とは違うベクトルで大切で大好きなのだ。
嫁達を捨てろなんて絶対無理。
でもさ、やっぱり引くよな。
パンピーがこの部屋見たら、普通引くよな。
所謂汁絵のポスターも飾ってあるし、きっわどいフィギアも飾ってあるし。
それでもこの現状を知ってもらわない限りは、本当の、根っこの部分の俺を知ってもらってないのと一緒なんだ。
俺はそれを…知ってもらいたいと思ってる。受け入れて欲しいと思ってる。
全部の俺を好きになって欲しい。
「マジで!?行っていいの?部屋片付けたん?」
その辺は曖昧に誤魔化しつつ、嬉しそうな淳平君に釘を刺し、本日我が城に淳平君がやってくる事になった。
とりあえず地元の駅で待ち合わせ。
駅の外のバスロータリー脇のガードレールに腰をかけて淳平君がこの梅雨時期のじめじめを吹っ飛ばすような爽やかーな笑顔でやってきてくれるのを待つ。
まだかな〜
パンツのポケットに入れていたケータイが震えた。
メールかな、それとも電話かな。
取り出して確認すると『もうすぐつくよ(^^)』って。
思わず顔が弛んでしまう。
早く来ないかな〜
ふへへ
「おにいさ〜ん」
気付いたら見るからに他人種の制服を着崩しまくった高校生三人に囲まれていました。
三人ともホモサピエンス所か哺乳類としてありえない色の髪色をなさっているんですが、あんたら鳥類ですか!?
親御さんからもらった体を大切にしなさいよ。
なんて口から出せるはずもなく。
「お兄さんのにやけ顔、キモーイ」
「公害だよ公害」
「目がおかしくなったから、目医者行かなきゃ。治療費ちょーだい」
そうですかそこまで俺のにやけ顔は酷いモンですか。
公害ですか。
まぁ小学校でも中学校でも高校でも言われてきましたので。
そこまで気にする事でもないですが。
これってやっぱりカツアゲですよね?
理不尽な請求されてますよね、俺。
「金、あんまもってきてないんで」
それはホント、この間洋服一揃い買って金欠なの!!
切り詰めて切り詰めて、数人の嫁を諦めてるの!!
財布にだってまともに金なんか入ってねーっつの!!
「はぁ!?おにいさーん、嘘付いちゃダメでしょ」
「それとも痛い目みる?」
嘘はついてねー!!
マジもやし炒めと白飯とかで頑張ってんだよ。
もやしなだけに。
親の庇護を一心に受けて俺より体格が良く育った高校生達は、両脇から肩をがっしり組んできた。
もうこれは、痛い目見ながらお金も取られるコースだぁぁぁ!!!!
いいか、オタクが皆金持ってると思うな!
今は何でもネットでポチっと、お家に届く時代なんだ!!
財布には金が入ってる必要はないんだー!!
「マジ、お金ないんです」
「それはゆっくり調べさせてもらうから」
「あっちの脇道行こうか」
財布にお金が入ってないって判ったら、更に逆上してフルボッコのサンドバックだろこれ?
淳平君からもうすぐ着くって連絡入ったのに。
待ち合わせ場所に俺がいなかったら、きっと心配するよな。
淳平君に一報だけでも入れたいけど、入れられる状態じゃねー!!!
半分抱えられるような状態で三人に連れて来られたのはビルとビルの間の細い路地。
ああ、なんて定番な、お決まりパターン。
サンドバック決定。
ほら、怖くない…怖くない…
って怖いわー!!
まあ俺も、こんななりをしておりますので、絡まれるのなんて一度や二度や三度や四度…ではございません。
でもさ、今日じゃなくたって良かったじゃん。
時間に遅れてしかも怪我してたら、絶対淳平君に心配掛ける。
それは避けたいけど、避けられない状況。
連れ去られる間も、周囲は見て見ぬ振り。
どこ行った下町人情!!
「じゃ、出すもの出して」
しょうがない、千円札一枚しか入ってない財布を出すか。
どうしよう…俺の当面の食費なのに…飢え死ぬ。
おずおずと鞄から財布を取り出し差し出す。
ニヤニヤ笑いの高校生達は俺の手から財布をひったくると中身を確認した。
英世一人しか、俺には英世しかいないんだってば!!!
高校生達の顔はみるみる凶悪に…
最初っから持ってねーって言っただろーがー!!
まあこの高校生達にそんな正論通じるはずもないよな。
諦めよう。
俺の諦めの早さは天下一品アルヨ!
この三人に敵うはずないし。
淳平君には心配掛けちゃうと思うけど、謝り倒そう。
ゴメンね、ホント。
「千円札一枚ってふざけてんじゃねーぞ!!」
胸倉を掴まれて、ぎゅっと目を瞑る。
だから金ねーって言ったじゃあああああん!!!!
どかっと殴られる音が響いて、ガタガタって倒れこむ音。
痛い、確実に体中が痛い音。
だけど俺が痛いわけじゃあないのです。
何が起こったんだとそろりと目を開けて状況を確認。
薄っすらと開けた目に最初に入ってきたのは、高校生のローファーではなくごつめのスニーカー。
そろそろと上にずらしていけば、すらりと黒いパンツを履いた長い足、適度に引き締まった胸板、そんでもっていつもは穏やかな笑みを湛えている顔がただ今は怒りの形相。
「淳平君!!」
スゲーよ、漫画みたいな展開!!
助けに来てくれたんだね、空手有段者!!
ヒーローみたい。
俺の事を助けに来てくれたヒーローみたいだ。
男が憧れる、ヒーローみたいだよ。
淳平君は安心させるように、俺へ向き直るとにこっと笑むと、あっという間に三人を沈めた。
格好いい!!スゲーカッコイイ!!
このカッコイイ人が俺の恋人って正直信じらんないけど、惚れ直した。
立ち尽くすしか出来なかった俺の洋服からほこりを払い、取られた財布を拾ってくれた。
「痛い所ない?何かされなかった?」
「ダイジョブ、です」
むしろね、君の勇姿にどきがむねむねしてぎゅーってなって痛いとか。
ゴメ、俺の頭がイタイや。
「駅から出てみたら、高校生に囲まれて連れられてく所で…心臓止まるかと思った」
間近にある整った男前の顔が、歪む。
心配掛けたよな。ごめんな。
でも…かっけー淳平君を見られて、役得とも思ってる。
内心ホントごめん。
「助けてくれてありがと」
惚れ直した。
って言うのは流石に恥ずかしかったので、まぁまた今度。
言う機会があればの話。
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