オリジナル

□第八話
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またメイド喫茶に行きたいとのたまった淳平君。

お、はまったのかい?
いいもんだろう?可愛いだろう?天使だろう?


でも若干複雑ではあったりする。
俺って結構、心が狭かったんだな。
初めて気付いたよ。






他愛もない会話を繰り返して、行きつけのメイド喫茶へ。
他にも色んなおみせがあるし、他のお店に行ってみる?
って聞いたら、この前の店がいいって。
もしやお気に入りの娘を見つけたとか!?
沙那ちゃんとか!?
いーや、沙那ちゃんは、沙那ちゃんだけは俺の妹だ。
いくら淳平君が顔が良くスタイルも良い上に性格まで良くって実は国立大学通ってて空手は有段者であっても妹は譲れん!!

…言ってて凹むわ。
男として。


今日の受付担当は菊花ちゃん。
黒髪ぱっつんボブにロングスカートのメイド服。
なんともクラシカル。
なんかこう…大正時代の洋館に仕えているメイドって感じ。
このお店はホントにキャラ立ちしてて素晴らしい。


「兄上、こちらのお席でございます」

菊花ちゃんに案内されたのは窓側の席。
って言っても眺めが良かったりする訳ではない。
何せ雑居ビルが立ち並び、オタクが行き交ってる風景しか入ってこないのだから。



渡されたメニューを見ながら、今日は何にしようかなーと考えて。

俺は今日はナポリたん☆
これを注文する際は、ナポリタンの時と発音を変えなければならない。
それはお店側、そして客側の暗黙の了解事項だろう。
あとはいつも注文しているめろめろめろ〜んソーダ。

一方淳平君は季節ものの流れ星そうめん。
卵とかハムとかが星型になってそうめんの上に乗ってる夏季限定メニューを頼んでいた。
日本人は往々にして限定物に弱いけれど、そういうものに無頓着と言うか興味なさそうな淳平君が注文するというのがちょっと意外だった。
限定物って言うよりはただ単にそうめんが食べたかったってほうが有力かな?

「突然来たいとか言い出して、どうしたん?」

注文したナポリタンとそうめんがやってくるまでの時間。
俺はぼんやりと、二人で初めて来た時の事を思い出していた。
それから何回か来たが、頻度としてはぐっと減ってしまった。
土日は確実につぶれているし、平日も淳平君の大学の講義が少ない日は家に来て夕飯を作っておいてくれたりするので、家で食べる事が多くなったのだ。
いやあ甲斐甲斐しいね。
すごいっての通り越して呆れるよね。
感謝はしてるよ。もちろん。



「報告しとこうかなぁ、と思って?」

俺の投げかけた質問に、淳平君はにっと口端を持ち上げた。
何だろう、その企んでます的な笑みは。
これからあまり嬉しくない事が起きるのではなかろうか?

報告って何?
わざわざここに来ないとできない報告って何さ。
表情からして、悪戯を考えています。
といった感じだから、別れ話とか、そんな話ではないと思う。
たぶん。

つか、メイド喫茶で別れ話って!!

ああ後ろ向き思考はいかん!!
俺ら仲良いよ。
円満だよ。

うん、だから何?報告って。



「あら、嬉しいですわ。お客様」

ナポリたん☆、めろめろめろ〜んソーダと流れ星そうめんを持ってやって来たのは沙那ちゃんだった。
おお!!今日もキュートだマイエンジェル!!

そのふんわりした笑顔が癒し。


そう言えば…何で沙那ちゃんが『嬉しい』なんだろう?
文脈からいったら…淳平君の『報告』が『嬉しい』って事?
え、なになになに!?

悪い予感を払拭したくて、乾く喉を潤すためにめろ〜んソーダを口にした。
所で。

「友達から昇格したよ」

淳平君のにこーって笑顔に、炭酸が変な所に入って大いにむせる。
げほげほやって、苦しくって涙まで出てきやがったぞ。


待て待て、何言っちゃってんの、コイツ!!
報告って、それ?
お前、炭酸飲んでる時に変な事言い出すなよ。
吹き出してたら、今度こそお前はピッコロになってたからな!!
危ない所だったんだぞ。

「まあ、おめでとうございます。お兄様」
「沙那ちゃん、なんか色々おかしくないかな?」

沙那ちゃんまで何を言い出すのー!!
ちょっとお兄ちゃんは泣いちゃうよ。

そんな話をしているからね、ほら他のメイドさんもとい妹達だって興味津々でこっち見てるよ。
いたたまれない!!

思い返してみれば…
前回来たときも、二人は妙に意気投合してたけど、全然判ってなかったんだな、俺は…
ようやく全てを悟った気がする。

「おかしくなんてありませんわ」

きらきらした沙那ちゃんの目。

ひとまず言える事は、腐女子って怖い。

「淳平君もなんでわざわざ言うのさ」

諸悪の根源、目の前の男を恨みを込めて睨むも、楽しそーに笑顔を作るのみ。
全然堪えないよ。コイツは。

そう、女の子達が卒倒しちゃうんじゃないかってくらいの極上の笑みで、さらっと。

「面白いかと思って」

悪びれもしねー!!!!!

楽しんでる事は察してたさ。
俺で遊んでるんだろうなーって事は薄々気付いていたさ。
ついでに沙那ちゃんも。

この二人は俺の反応で楽しんでるんだ。このドSめ!!

いや、まあ事実なんですがね?
そこを否定する気はないよ。
でもさー、わざわざ報告する事ないじゃん。
俺、もうここに来る勇気がないよ…

「拗ねんなよ」

ニヤニヤ笑いがホント憎たらしい。

「拗ねてねーよ」

きっと謝られちゃえば、すぐに許しちゃうんだろうけど、少しはお灸を据えねば。
あんまり意味がないんだろうけどなー。
俺、甘いんだろうな。
くそう!!年下の特権か!!


「兄上、自信をお持ちください」

いつの間にやら沙那ちゃんの横に来ていた菊花ちゃんが鬼気迫る勢いでそう告げる。

何が?
何の自信?
これまた嫌な予感がするよ?


「寺稚児然り、衆道然り、硬派主義然り。日本には基盤があるのです!!
自信をお持ちになって、兄上」
「まあ、菊花ちゃん。さすが博識ですわね」

いやいやいや、もうお兄ちゃんは二人についていけねーよ。

「ごめん、菊花ちゃん。三つとも判んねーや」
「あら、懇切丁寧に説明致しますか?」
「いえ、遠慮しておきます」
「良かったなー、祝ってもらえて」
「良くねーよ!!」


当分ここには来れない。
俺はむせび泣くしかなかった。









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