キリ番・捧げ物

□おとめごころ
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「やっほー小十郎さん。見て見て!今日はかすが使用っ」
「……お前な…」

毎日毎日、よく顔出せるもんだなこいつは…。武田の仕事してんのか?伊達に鞍替えでもすんのか?
畑仕事をしていれば、女を主張する胸が見えそうな……上杉の忍に近い服で目の前に降り立ち、上目遣いで笑顔を浮かべる猿飛の姿。思わず息を呑むが盛大な溜息で誤魔化す。

「上を着ろ。見てて寒い」
「ちょっと!第一声がそれとか酷くない?もっと言う事あるでしょ!」
「……少し肉付きが良くなったか?」
「なっ……!?」

怒って帰れと言わんばかりに告げると、鍬を振りかざし土を掻く。
ちらりと横目で様子を窺えば、唇を噛み締め瞳を潤ませていた。

(女に向かって、ちょいと酷かったか…)

「……小十郎さん」
「…?」

ふわりと揺れた橙が、俺の胸に擦り寄って来る。拒む事も理由もなく、鍬から手を離しそっと背中に手を回す。胸が…当たる。

「俺様、どうすればいい?こんなに小十郎さんの事好きなのに……好きになって貰いたくて頑張ってるのに…振り向いて貰えない。女なのに忍だから?お姫様や町娘だったら、遊女だったら傍にいれた?」
「猿飛……」

いつもヘラヘラしていて、飄々としていて、感情なんか詠ませてくれないこいつが……女の顔で、感情を剥き出しにぶつけてくるなんて………。



俺も、腹を括らなきゃならねぇな…。



白く細い冷えた体を抱きしめる。
柔らかな橙の髪から、甘い香りがして心地好い…。

「無理するんじゃねぇ…いつものお前でいろ……佐助」
「……小十郎、さん…?」
「理性を保つのも限界がある…そんなに胸見せられちゃあな」
「あ……っ」

見下ろせば徐々に顔を紅くする猿飛の顔。
恥ずかしげに、それでも何処か嬉しげに小さく笑う。

「じゃあ次は、小十郎さんの好きそうな着物にするね?」
「頑張って俺を落としてみろ」
「勿論っ!次は絶対惚れたって言わせてやるんだから」

ふにゃりと幼く笑みを浮かべれば、腕の中から姿を消した。
青い空を見上げながら、既に姿のない相手を見送る。


「もう、とっくに惚れてるさ……」


明日は、茶でも用意しておくか…。
茶菓子のずんだ餅もこしらえよう。
食ってくれるといいんだがな…。


●●
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