キリ番・捧げ物

□闇を愛した闇
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伊賀を嫌う甲賀。
甲賀を嫌う伊賀。

それでも、あの方だけは別物だった。





「長、薬草お持ち致しました」
「ありがとう才蔵。いつもごめんね」

眩しい笑顔。歳に似合わぬ幼い笑顔。
忍には見えない程、輝いている。


我等忍隊の長……猿飛佐助。
幸村様にお遣えする忍の中で最も優れ信頼されているお方。

『これからよろしくね、才蔵』

初めてお目に掛かった時に見せてくれた優しい笑顔に、我の闇に光が灯った。
主よりも、この方の為に生きようと誓った。


「才蔵ごめん、背中頼める?」
「承知致しました…」

森の奥深くにある長の隠れ家。戦や任務で付いた傷はいつもここで治療する。城では幸村様に心配を掛けてしまうからと、申し訳なさそうに笑みを浮かべていたのを覚えている。
そして此処に入れるのは忍隊の中でも我だけ……。此処に居る時だけ、我は長を独占出来る。幸せ意外の何物でもない。


露になる長の白く細い背中。幾つもの傷痕が痛々しく残っている。新しく出来た傷に薬をそっと塗り始める。

「ひゃっ……冷たー」
「痛みはないですか?」
「あったけど、もう慣れたよ」

肩を揺らしクスクスと笑う。今その表情を見れないのは残念で仕方がない…。
布を貼り包帯を巻いていく。
触れる肌は寒さのせいか冷たい。逆に我の肌は、熱くなり始めていた……。

無防備な長の体を……無意識に抱きしめていた。

「……どうしたの?」
「長……お慕いしております」
「知ってるよ…」

言わずとも我の想いに気付いていた長…。白く滑らかな首筋に口付けると、抱きしめる腕に柔らかな唇が触れた。


「俺様、一応怪我人だから……優しくしてよね?」
「御意……」
「温めて……才蔵」


此処は我等二人だけの隠れ家……。
長の全てを唯一感じられる場所。

深まる闇の中、我だけの光を包み込む。
誰にも渡さないように、白い肌に紅く華を散らしていく。

闇を愛した闇は、更なる闇へと堕ちていく…



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