bag of sun
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距離も時間もおけるこれ以上ないチャンスを、一週間前、マサヤは自らつぶしにやってきた。
事務所の先輩であるダビが撮影のためこちらに訪れるというので、勝手についてきたらしい。
所属モデルなので作品撮りという大層な名目を作り、ダビとともにLAのホテルに滞在している。
「ダビ、なんか悪いな、いつも」
「まあ、来週には帰るからさ。僕もサトルと会えて嬉しいんだけど。こっちこそごめんね、忙しいのに」
「…頼むから、こいつも一緒に連れて帰ってくれよ」
「まあね、帰るとは思うんだけど。もうチケット用意されてるし」
「ちょっと!英語で会話やめてくれないっ」
マサヤが割って入ってくるけどシカトだ。
無くしたあたまのネジは一本や二本ではないだろう。
突然鳴った電話に驚いて、寮であるアパートを出ると、そこにマサヤはいた。
目が合った瞬間、それまで浮かべていた泣きそうな顔を引っ込めて、満面の笑顔で抱き着いてきた。
窒息しそうなくらいぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
なんでここに?!
慌てるおれの両肩に手をおいて、とびきりの笑顔を浮かべ、言った。
「…来ちゃった」
イケメンの笑顔ってすごいな。
あそうなんだ、とうっかり言いそうになる。
以来、二日と空けず会いにきて、好きだ好きだと騒ぎ立てていく。今日で三回目。
おれと違って、素直で嘘とかつけないやつだとは思ってたけど、ここまで素直に気持ちをぶつけられて困ってるというのが正直なところだ。
マサヤは大事な友達だ。
びっくりした顔がかわいすぎてつい笑ってしまったけど、出発の冬の朝ホームで告げられた言葉は、いい返事はできなくても、きちんと受け止める気ではいた。
いたんだけど。
「ちゅーは挨拶だからね!」
反射的に拳が出るのも仕方ないんじゃないだろうか。
キスは挨拶、間違ってないけど、ぜんぜん違う。
「…せめてグーはやめてください」
「顔狙わないだけ感謝しろ」
てゆうか平手だと、手のひら舐められるし。思い出しただけでちょっと鳥肌が立つ。