パレードが過ぎた朝に

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チャリをすっとばして、車で15分のとこを15分で着いた。
泳いできたみたいに全身汗だくになって駆け込んだ入口で、名前を呼ばれた。
返事したくてもゼエゼエと呼吸が整わない。

「213号室。向こうの階段上がって、右側」

教えてくれた直正くんに頷いて、階段を二段飛ばしで上がる。

右側!

開いてたドアから勢いよく飛び込むと、シャリ、といい音を立ててかじった林檎をかじった、見慣れ過ぎたたれ目と目があった。

その脚に巻かれた真っ白の包帯。


「…はぁっ、お前、なに、してんだよ…!」
「ユウちゃん」

大丈夫?とほっぺに林檎をつめたままキヨが言うけど、返事になってない。てゆうか大丈夫って聞きたいのはこっちだ。
心臓がバクバクとうるさくてうまくしゃべれなかった。呼吸を整える間に、キヨがテーブルに手を伸ばすのがみえた。

「…っ、キヨ、」

とりあえず食うのやめろ、という意味もこめて睨みつけると、やや間があって林檎を差し出された。


「…水、その棚に」




違うし。ぜんぜん違う。林檎食わせろとか飲み物よこせとかじゃないし。


「………なに、やってんだよキヨ」


すぐそこの棚なんかお前、ちょっと手を伸ばせば届くだろ。伸ばせよ、手。
動けよ。
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